「卒業」 重松清
卒業 重松清 新潮文庫 2006.11 |
重松清は好きな作家の1人でずっと文庫で新作が出るたびに追いかけていたんですが、割と作品の出るペースが早い作家なので、次々と出る新作と重松節にちょっと満腹(?)になってしまい、少し離れてみようと思って、このところ全く読んでいませんでした。そんなわけで、約3年ぶりの重松作品。
「卒業」をテーマに、「まゆみのマーチ」、「あおげば尊し」、「卒業」、「追伸」の4作品を収録した短編集。
いやはや、久々の重松作品だったんですが、相変わらずの重松節に見事にやられてしまい、見事なまでに泣かされてしまいました。収録4作品の中では「まゆみのマーチ」に一番泣かされましたが、完成度としては「追伸」が一番印象的。
では1話ずつ簡単に感想を。
「まゆみのマーチ」
死が目前に迫った母の見舞いにきた主人公とその妹のまゆみ。まゆみは子供の頃、いつでも歌い出してしまう子で、学校の先生はそんなまゆみに手を焼いていた。そんな母とという物語。
重松清の作品は妙にリアルなキャラ設定と、淡々と無駄のない重松節炸裂な描写、そして、演出の上手さが特徴だと思うんですが、この「まゆみのマーチ」は演出の上手さが際立っていました。
なんかね、ずるいよ。ただただ温かく包み込む母の姿に完全ノックダウンです。そういえば重松作品を電車の中で読むのは危険だったということをすっかり忘れていた僕は、必至で涙腺をしめてました。
ちなみに、読み始めた最初の頃は、重松作品はストーリーが上手いのだと思っていたんですが、ドラマ化した作品をいくつか観た時に、本で読んだほどの良さを感じられなかったので、やはり、「小説」としての書き方が秀逸な作家なのだと認識した記憶があります。
「あおげば尊し」
高校の教師だった父が癌におかされ、最期の日々を自宅で一緒に過ごすことになった小学校教師が主人公。「死」に興味を持つ自分のクラスの生徒に父の看病をさせようとするのだが・・・。という物語。
この歌、僕は結構好きでした。ちなみにうちの中学校では歌いましたよ、これ。メドレーになってて、ピアノ伴奏のアレンジが良い感じお気に入りですた。余談ですが、うちの中学では、当時まだできたばかりだと思われる「旅立ちの日に」も早々に導入して歌ってました。これもまたピアノ伴奏が好きでした。
で、作品の感想ですが、特にこれといったものは・・・。扱ってるテーマが難しい作品だと思うんですが、個人的にはやや消化不良気味。
「卒業」
14年前に自殺した大学時代の友人の娘だという女子中学生が訪ねてきて、父親のことを教えてほしいと言われる物語。お互いが社会人になり晩年には少し疎遠になっていた友人のことを少しずつ思い出すのだが・・・。
「ゆるす、ゆるされる」がこの本のテーマだというようなことをあとがきで重松氏が自ら書いていますが、これに加えて、「受け入れる」というのも大きなテーマになっている1冊だと思います。こうしたテーマが非常によく描かれていたなぁと思います。
「追伸」
幼い頃に亡くなった母が、死の間際に自分に宛てて書いた日記帳をめぐる物語。やがて父は再婚するも、義母のことを母親として受け入れることのできなかった少年は成長して作家になるのだが・・・。
これも難しい問題を扱っていて、非常に丁寧に描いているという印象です。最後の展開もなんとなく予想できるんですけど、時間軸の幅のある物語をとても上手くまとめていて、読み応えのある作品でした。これもちょっとウルっときましたね。
そんなわけで重松作品読書復帰第1作としては大満足の1冊。次は何読もうかな。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは。また来てしまいました。
すっかりストーカーになってしまってます・・・
初重松作品でしたが、1作目でが~~ん、とヤラれました。
「まゆみのマーチ」の元歌をよく知る世代だけに、
余計に胸に迫るものが強かったかもしれません。
母と娘のお話や、息子を思う母の気持ちについ自分の思いを重ねてしまいました。
この方の作品って、構成も言葉選びも巧い上に、
最後になったら、わかっててもやっぱりボロボロに泣いてしまうんですね…
重松作品をぼちぼち読んで行こうと思い、「流星ワゴン」を買って来ました。
再開した古本屋通い、しばらく続きそうです。
投稿: 悠雅 | 2008年6月21日 (土) 01時05分
>悠雅さん
いえいえこちらこそコメントいただけて大変嬉しいです♪
「まゆみのマーチ」、
残念ながら元歌は知らなかったですのが、
それでもこの作品には完全にやられてしまいました。
重松清の作品は、
気をつけないと思わぬところで涙があふれてしまうのですが
そんなことはすっかり忘れて電車で読んでいたので大変でした。
「流星ワゴン」も面白かったのでオススメです。
個人的のは非常に非常に重たい作品なのですが
「ナイフ」や「エイジ」も見逃せない1冊だと思います。
あと短編集だと「日曜日の夕刊」が結構オススメですので、
よろしければ是非読んでみてください。
(↑なんか押し売りみたいになってますが・・・)
こういう自分も、数年間ちょっと重松作品から離れていたので
近年の作品には疎かったりします。
投稿: ANDRE | 2008年6月22日 (日) 01時11分