「いつかパラソルの下で」 森絵都
いつかパラソルの下で 森絵都 角川文庫 2008.4 |
このところすっかりYA作家から一般作家へと転身を遂げた森絵都さんの長編小説。これまで読んだ作品が結構良かったので文庫化したらチェックするようにしています。
主人公の野々はパワーストーンを売る店でバイトをしながら、恋人の達郎と同棲生活をおくる25歳。厳格な父親の呪縛から逃れるため、20歳の頃に家を出て以来、実家に帰っていなかったのだが、父が亡くなり、その49日の法要を前に、実家に帰り、久々に家族が集う。そして、そこで、厳格だった父が不倫をしていたのではないかという疑惑が浮上する。
やがて、主人公同様に20歳で家を飛び出した兄と、最後まで両親と暮らした妹の3人は父の足跡を辿る旅に出るのだが・・・。という物語。
割と「性」の描写も登場するので、森作品のYAなイメージで読むといきなりちょっとビックリなんですが、テンポの良い語り口などはそのままでとても読みやすい作品でした。
この作品が描くのは、自らのコンプレックスと向かい合う主人公達なんですが、結局、主人公達の上にいた父親という存在が揺らぐときに、1人の人間としての父を知ることが、自分自身に向き合うきっかけになるという物語で、何かから逃げるのではなく、それと向かい合うことでちょっとした変化が起こるんだということを暖かく描いていました。
家族、恋人、そして、自分とどのように向き合うのかということをとても丁寧に、そして、一見ドロドロになりかねない登場人物たちの背景を割と爽やかに描いていて、森作品は相変わらず良いなぁと思いました。
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