映画「ミスト」
the mist 2007年 アメリカ (劇場鑑賞) |
久々の劇場鑑賞です。スティーヴン・キング原作でフランク・ダラボン監督という『ショーシャンク』、『グリーンマイル』コンビの新作。実はこの2本はあまり好きな映画ではないのですが、今回はモンスター映画に挑戦しているという点と、原作が面白かったのを覚えているという点で是非とも観たかった1本です。
激しい嵐が過ぎ去り、町中で被害が出た翌日、主人公デヴィッドは息子のビリーと2人で近所のスーパーへと買い物へ出かける。スーパーで買い物をしていると、そこに血まみれの男が現れ、自分の友人が霧の中で何者かに襲われたのだと言ってスーパーへとかけこんでくる。そして、たちまちスーパーは深い霧に覆われてしまう。
やがて、霧の中に何か恐ろしい生物がいるらしいことが発覚し、スーパーにいた人々は大パニックに。危険をかえりみずに外へ飛び出していく者がいるなか、聖書の言葉をひたすら繰り返す狂信的な女性と次第に彼女を慕うようになっていく人々など、閉ざされた空間の中で、人々の狂気は次第にエスカレートしていく・・・。という物語。
久々に凄い衝撃のある映画を観たなという印象の1本です。このドンヨリ感には「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も「パンズ・ラビリンス」も負けるんじゃないでしょうか・・・。
モンスターもののパニック映画としては、クリーチャーの造形などに安っぽさがあり、B級テイストなんですが、この映画のツボはなんといっても、「人間」の描き方だと思います。2時間以上の間、中だるみになることなく緊張感が維持されたのは、「人間」の怖さを徹底して描いたいたからではないかと。
特に狂信的な女性を演じたマーシャ・ゲイ・ハーデンは必見。キング原作映画史において、『ミザリー』のキャシー・ベイツや、『シャイニング』のジャック・ニコルソンと並ぶ怪演だったと思います。
各人の言葉、行動の1つ1つがしっかりと意味を持っていて、各場面で観ている我々に色々と考えさせながら、その行動が引き起こす結末の「因果応報」が非常に上手く練られていたと思います。正義、信仰、狂気など色々なテーマを盛り込んで単なるパニック映画を超えて「人間」について深く考えさせる作品になっていて、観終わった後もずっと色々なことを考えてしまうという1本でした。
観終わった後に自分が何かを考えるきっかけを与えてくれるという点で、2時間ほどの時間でこれだけの問題提起をしてくれたことに感謝したくなるような作品。
そして、過去見てきた映画の中でも「衝撃のラスト」という言葉がこれほど合うものがあっただろうかと思ってしまうほどの衝撃のラストは、ただただ絶句。これはハリウッドのパニック映画史に残るラストではないかと。
以下ネタバレあり(反転させてどうぞ)
衝撃のラスト、もうあの場面だけでも十分すぎるくらいの絶望感を味わったんですけど、この映画で一番の衝撃は、やはり、ジープに乗ったあの女性を目撃した点ではないでしょうか。
この作品、正当防衛(?)であれ、殺人を犯した男は、真っ先に殺されてしまったりと、やはり因果応報がしっかりと守られているんだけれど、そもそもの冒頭の場面が全ての地獄の始まりだったというのはなんとも皮肉。
こういうパニック映画って、主人公がヒーローていうことが多くて、この映画でもひたすらパニック映画の定石通りに展開して、ずーっとそういう視点で描いていたわけだけれど、最後の最後でその英雄をドスンと地獄に突き落としてしまうあたりの妥協ない作品作りにはただただ脱帽でした。
そして、定石通りに展開する安心感からか、観ている我々もまた、主人公達の行動に共感できるわけで、そうすると、同じような境遇にあったときに、もしかしたらラストの主人公の立場に立つのは自分なのではないかという恐怖をまた感じさせたあたりも見事でした。
観ていてふと思ったのは、この映画、たとえば、軍の視点から作ったら、「怪物がいて、それをなんとかして倒して平和になりました」というよくある普通の英雄が大活躍するパニック映画だったと思うんです。しかし、そのハッピーエンドの影には、この主人公のように、絶望の淵に立たされて、もう少しのところで、究極の選択をしてしまう人間というのも当然いるわけで、たとえば、「宇宙戦争」やら、「インディペンデスデイ」なんかの物語でも、こういう状態にあった人たちはいたんだろうな、とふと感じたわけです。明るいハッピーエンドの裏には数え切れないほどの鬱エンドがあるということをこれでもかというくらいに知らしめてくれた作品だと思います。
そんなわけで、この映画が描く人間模様は本当に衝撃だったんですけど、やっぱりラストの余韻は切ないというか暗くなってしまいますよね。車に乗って必至に逃げていると思ったのに、恐らく彼らは「平和」と「霧」の狭間にいて、その淵をひたすら「平和」から逃げるようにして走っていたわけなんですから。でも、現実に、こういうことって結構あるのかななんて気もしますけど。
何の希望もないラストはちょっと観終わった後がなぁ。あの主人公、今後どうやって生きてくんだろ。でも、その辺りで妥協しちゃうと、この映画は凡作になったんだろうしなぁ。うーむ難しい。
(ネタバレ終わり)
キング作品は実は結構好きで、中学~高校の頃にはかなり読んでいました。映画化されることも多いですけど、とりわけ、この手のパニック系の映画はB級テイストで終わってしまうことが多い中、原作をこれほどまでに見事に映画化したことにビックリです。
まぁ、ところどころ、説明過剰だったり(怪物の正体とか正直説明する必要ないと思う)、不足だったり、ラストはやっぱり良くないんじゃないかと思ってしまったりだとかあるんですけど、観る価値のある1本だとは思います。2度目は恐らく絶対に観ないけど。
なんか、これ観ちゃうと、トム・クルーズ×スピルバーグの『宇宙戦争』なんてどうでも良くなっちゃうね。
ちなみに個人的ベストキャラは、驚きの生命力(?)だったおばあちゃん先生。
参考過去レビュー
『宇宙戦争』 : 色々と似た設定がある。
『ポセイドン』 : パニック映画の定石をいく王道傑作のリメイク作品
『パンズ・ラビリンス』 : 「人間」を描く鬱ラストの傑作といえば。
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