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2008年6月 5日 (木)

「河岸忘日抄」堀江敏幸

河岸忘日抄

堀江敏幸

新潮文庫 2008.4

堀江敏幸の作品は結構好きなんですが、その中でも、様々な文学作品に思いを馳せるエッセイ調の作品群がお気に入りです。でもって、そのスタイルで書かれた長編ということでちょっと楽しみにして読んでみました。

主人公の「彼」は、フランスの恐らくパリ郊外で川に浮かべられた居住用の船を借り、そこで過ごすようになる。ファックスでやりとりをする日本の枕木さんや、船を訪れる郵便配達夫、少女、船の大家など様々な人と会話を重ねながら、異国の地で彼は、文学作品や、映画などに思いを馳せ、人生を考える。という物語。

400ページほどの長編なんですが、ストーリーは上に書かれた以上のものはないという感じで、ひたすら、船の上で思想に耽る主人公を描くというちょっと変わった作品です。とっつき難い感じもあるんですが、作品全体のテーマを貫く作品として、ブッツァーティの「K」(僕が読んだ訳だと「コロンブレ」)を取り上げていて、それだけで一気に作品に引き込まれてしまいました。

「コロンブレ」という作品は本当に短い短編なんですけど、その作品に馳せる思いを400ページかけて描くというあたりに、文学者でもある堀江氏の底力を感じました。

文学作品を題材にとって、登場人物の思索を描いていくのは、堀江氏の作品ではすっかりおなじみの手法だけれど、これを長編でやると、やっぱりちょっと読むのにはそれなりの覚悟が。余裕のあるときに、それこそ、船の上とかでのんびりとじっくり味わいながら読むのに適している1冊だなぁという印象で、用事の合間に時間を見つけて読むような急かされた感じの読書だと作品世界に浸かる頃には現実に戻されてしまうので、なかなか味わうのが難しいなぁと。

クレープにしろ、樽にしろ、ジャムにしろ、オムレツにしろ、「K」にしろ、同じモチーフを何度も何度も繰り返して出してきて、他人からすれば悠々とした生活を送っているようにも見えるであろう主人公が、必死で何かを模索し、考え、ためらい、待ち続ける姿がとても印象的でした。

なんか読んでると、お腹も空いてくるし、音楽も聴きたくなるし、本も読みたくなるし、船にも乗りたくなるしで、主人公に影響されまくりな自分でした。

時間がたっぷりあるときに、もう少しゆっくりと味わいながら静かに読みたいなと思ったので、いつか旅先にでも持っていって、のんびりと読み直してみたいなと思います。

<参考過去レビュー>

「神を見た犬」ブッツァーティ: 作中に登場する「K」の話が収録されてます。

「熊の敷石」堀江敏幸: 芥川賞受賞作品。かなり好きな短編です。

「雪沼とその周辺」堀江敏幸: この短編集も良かった!

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