「デカルトの密室」瀬名秀明
デカルトの密室 瀬名秀明 新潮文庫 2008.5. |
瀬名氏の作品は理系ネタ満載ながらも、文系文学少年がワクワクするようなものが多くて、結構好きなのですが、こちらは先月文庫化した1冊。
舞台は近未来。主人公の尾形祐輔は自らが開発したロボットのケンイチとともに、人工知能の国際大会に参加するのだが、その会場に、10年前に亡くなったとされていた天才女性学者のフランシーヌが現れ、とあるゲームを提案すうr。そして、そのゲームの途中、祐輔は何者かに監禁され、やがて、会場では殺人事件が起こるのだが・・・。事件の謎とともに、人工知能の有り方をめぐる哲学的サスペンスを綴る物語。
タイトルにデカルトが入ってるんですが、他にもチューリングやらサールやら、チョムスキーやら、人工知能関連で、「人間の意識」や「身心二元論」なんかの話題にもふれながら、ちょうど理系と文系の狭間にあたる分野の話が展開していまして、自分も大学院生という立場上、その辺りの話題には知的好奇心が大いに刺激される1冊でした。
ただね、ストーリー展開とかが、個人的には今一歩ぱっとしなかった感じで、扱う内容が結構哲学的にこみいってることもあって、読むのが大変なんですけど、それを引っ張るだけのストーリー的な楽しさがあまり感じられなかったのがちょっと残念。内容の濃さから、説明が多く必要になってしまって、小説としてのテンポがゆるまってしまった感じ。普通にストーリーもちょっと難しいし。
しかしながら、この分野を話題にした小説の中ではかなり骨太で硬派な1冊ではないかと思うので、読む価値はアリだと思います。ノリだけの軽いSFとは一線を画す作品ですね。
この作品で面白かったのは、この手の話でしばしば話題になるのが「人間とは何か」という問題であるのに対して、「機械的であるとはどういうことか」ということに焦点を置いた話題を展開していたところ。「人間」と「機械」の違いを考える際、我々はついつい「人間」であることに特殊性を与えて、「人間的な要素」を探そうとしますが、それでは、「機械」って何なのか?と考えてみると、確かに「人間」と同じくらいに深い深い問題があるんだなぁというのを考えさせられました。
一つの哲学的論考として読んでもなかなか面白い1冊だと思います。
<参考過去レビュー>
「ハル」 瀬名秀明
同じく瀬名氏の書いたロボットものの短編集。こちらのほうが読みやすいです。
「哲学事典」 クワイン
哲学者さんによる哲学エッセイ。「デカルトの密室」で話題になる二元論の話なんかも出てきて、分かりやすくて面白い1冊。
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