映画「JUNO ジュノ」
Juno 2007年 米 |
今年のアカデミー賞のダークホース的存在だった作品がついに公開になりました。日本では重々しいドラマの題材として扱われるような問題を明るく爽やかに描く作品ということで、ちょっと気になっていた作品です。
主人公ジュノは極普通の16歳の女の子。彼女は、近所に住む友人のポーリーとの何気ないはじめての経験で、妊娠してしまう。はじめは中絶を考えるジュノだったが、自分の中に芽生えた命を大切にしようと、子供を里子に出そうと決意し、フリーペーパーで見つけた養子を欲しがっている上流階級の完璧な夫妻マーク&ヴァネッサに連絡をいれるのだが・・・。
高校生の女の子が妊娠に気づき、出産するまでの1年間を、周囲の人々との温かなやりとりを交えてポップに描く作品。
予想通りにとても良い映画でした。インディペンデント系でアカデミー賞ノミネートということで、『リトル・ミス・サンシャイン』なんかともよく比べられてますけど、こちらのほうが僕は好きですね。
オープニングがとてもポップで、実写を取り込んだアニメーションで描かれるんですけど、最後までその雰囲気を壊すことなく、ティーンの少女に起こった出来事を暗くなることなしに、けれど、決して軽くなく描いた作品でした。このオープニング、結構好きです。
ちょっと背伸びした感じのジュノちゃんが、しっかりと前を見据えてまっすぐに自分自身を持っているんだけれど、養父希望の男との関係などに、彼女の子供っぽさもしっかりと描かれていて、思春期の主人公の描き方がとても好きな作品です。
ちなみにこの映画に出てくる男たちはみんな、これでもかってくらいに「お子様」というか、なんというか。どんな形であれ「母は強し」というのを実感させられる作品でもありました。ただ、男性目線で見ると、彼らの気持ちも分からないでもないので、この辺りのコメントは差し控えさせていただきます。(←ブーイングが怖い)
どうせ僕は、ドーナツも投げたいし(むしろ食べたいけど)、ロフトのある部屋に住みたい子さ。伝わらないかもしれないけど、彼らだって、彼らなりに一生懸命考えてるはず。と、フォローだけしてみた。
この映画の女性たちは皆、誰かのために生きることを選択しているんだけど、逆に男たちは常に自分のことばかりなんですよね。ただ、映画の最後近く、ポーリーがジュノのために行動するところに、彼の成長も感じられてちょっと微笑ましかったです。逆にマークは一体・・・という感じですが。
日本で同じテーマを扱うと、こうは描かないだろうなぁという、10代の妊娠という問題ですが、この作品のアプローチ、周囲の大人たちの理解の良さにちょっとビックリしちゃいました。逆に学校では色々とあったようだし、ジュノ自身も色々と考えるところがあったようなことを匂わせるけれど、その辺のシビアな面はほとんど描かずに、この作品で伝えようとする部分に焦点を絞ったのも面白いつくりだなぁと思いました。しかもそれでいて、性の問題を軽く扱っているわけではないのがこの映画の深いところなんでしょうね。
ただ、その辺を「甘い」と感じることも確かなので、全体的に、こういうできごとが美化されちゃった感じが強いのも事実だと思います。
演出面では、前面に出てくるやり取りの中ではなくて、ふとした瞬間に見せるちょっとした表情の中に、登場人物たちの本心を垣間見せてくれるのも良かったなぁと思います。
主演のエレン・ペイジは本当にはまり役で、なかなか素直に自分の心を見せない感じの斜に構えた思春期少女JUNOの喜怒哀楽を見事なまでに表現してましたね。ポーリーの家の前でパイプくわえて座ってる姿が結構好きです。
なんとなくアクション系のイメージの強いジェニファ・ガーナーも現代的な養母希望の女性を好演。壁紙の色のシーン、僕は彼女の夫目線で見てしまい、かなりツボでした。あと、ジュノの継母さん、「ザ・ホワイトハウス」の報道官ですよね!継母だからこそなんだろうけど、それでも彼女の温かさも良い感じでした。ジュノの親友も良かったし、なんか全体的に女性陣が輝いている映画でした。
音楽もベルセバとか使われてて、アコースティックな曲調が多くて好きな感じなんですが、キミヤ・ドーソンの"tire swing"って曲がかなり気に入っちゃいました。アメリカではサントラも大ヒットしたとのことですが、それも納得。
ちなみにこの作品でアカデミー賞の脚本賞を受賞したディアブロ・コディ。ブログの評判が良くて、脚本を書くことを勧められたという新人脚本家さんなんですよね。ブロガーの憧れですねぇ。
バーガー電話が個人的には結構ツボでした。まさか通話口もあそこについていたとは・・・。こういうデザイン電話ってやっぱり通話には不便なんだね。
<参考過去レビュー>
映画「リトル・ミス・サンシャイン」
この作品と同様のヒットの仕方をして、昨年のアカデミー賞で話題になったインディペンデント系作品。
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コメント
P.S コメントもいただき、ありがとうございました。
投稿: ryoko | 2008年6月22日 (日) 19時20分
ANDREさん、こんにちは。
TBありがとうございました。
>ふとした瞬間に見せるちょっとした表情の中に、登場人物たちの本心を垣間見せてくれる
そうでしたね。マークとの関係がおかしくなって、家に帰って泣きじゃくるところなんて、いつも突っ張っているけれど16歳の女の子ってところが出ていて、愛しくなりました。
投稿: ryoko | 2008年6月22日 (日) 19時24分
>ryokoさん
こちらこそTB&コメントありがとうございます。
なんでも自分で決めることができて、
しっかりと自分の意思を持った強い子のように見えても、
やっぱりまだまだ16歳なんですよね。
そういう子が子供を生んでしまうってのは、
やっぱり日本だと重い作品にしかならない気がしますが、
この作品の爽やかな切り口はこれはこれでありだなぁと思えてよかったです。
投稿: ANDRE | 2008年6月22日 (日) 23時16分
こちらにもお邪魔します。
先ほどは届いたTB,今回は迷子になってしまいました。。。
わたしはご存知のような年齢と立場なんですけど、
男たちの気持ちがわからないではないと思いましたよ。
壁の色だってどっちだっていいし、
何でも「本によると」という言葉に不安も感じました。
でも、そんなところでしか情報や確信が得られない彼女が
ちょっと痛々しくもありました。
女は、自分の体型の変化と、胎内の成長と共に
母としての感情が自然に芽生えますが、
男性は、その実感も何もないまま、
いつ父親としての感情を抱くのだろうと、よく想像しました。
そういう意味では、
男性が父親になることのほうが難しいんじゃないか、と。
ジェニファー・ガーナー、実生活ではお母さんなんだな、と感じさせる、
子育て経験者ゆえの何気ない仕草が見えたのは、ご愛嬌でした。
といっても、これは未婚男性には見抜けないかも(笑)
投稿: 悠雅 | 2008年10月 8日 (水) 20時35分
>悠雅さん
コメントありがとうございます。
TB、反映させておきましたのでご安心ください。
映画の中で、男たちがあまりに不甲斐なく描かれていて、
きっとこれはダメ男として見られてるんだろうなぁなんて思いつつ
でも、彼らの気持ちはよーく分かるんだよなぁと思って観てました。
また自分に子供ができたりしたら変わるんですかねぇ。
ポーリーもちょっと成長してたようですし。
ジェニファー・ガーナーに子育て経験者の仕草を見出されたとは
もう流石としか言いようがありません。
自分、全く持って、なーんにもそんなものには気づきませんでした・・・。
どんな仕草なのかが気になります。
投稿: ANDRE | 2008年10月 8日 (水) 22時36分