映画「幻影師アイゼンハイム」(原作感想付)
the illusionist 2006年 アメリカ・チェコ 原作:スティーブン・ミルハウザー |
『プレステージ』が全米で公開されてたときに、同時期に似たような時代設定で同じくマジシャンを題材に取った作品が公開されているというのを聞いていて、むしろそちらのほうが見たかったのに、なかなか公開されないなぁと思っていたら、ようやく公開されました。
舞台は19世紀末のオーストリア。主人公、エドゥアルド(エドワード・ノートン)は少年時代に出会った不思議な男の影響で奇術に魅せられ、天才的な才能を発揮する。彼はやがて、近くの城に住む公爵令嬢のソフィと恋に落ちるが、身分違いの恋は許されはずがなく、彼女と別れて放浪の旅に出てしまう。
15年後、プロのマジシャンとなったエドゥアルドはアイゼンハイムという名で興行を行い、一世を風靡する。そんなある日、観客の中から1人を壇上に上げて手伝ってもらったところ、彼女がソフィであることに気づく。ソフィはオーストリア皇太子と政略結婚をすることになっていたのだが、再会した2人は・・・。という物語。
この映画、オープニングのクレジットを観ていたら、「スティーブン・ミルハウザー原作」と出てきたので、かなりビックリ。家に帰って確かめたところ、積読になっていた短編集に収録されていました。短編の方も読んだので、最後に原作と比較して感想を書きたいと思います。
さて、映画は「THE19世紀」という感じが良く出ていて、とにかく雰囲気が良い作品なんですが、直球ストレートな映画という感じで、面白いには面白いんだけど、ちょっと物足りないかなぁという感じも。ただ、このストレートさのおかげで地味ではあるけれど、非常に観やすいし、気軽に楽しめる作品になってます。こういう「THE映画」みたいな作品って最近だと貴重な気がします。
『プレステージ』は非常に背景が似ている映画なんですけど、あちらがSFミステリ映画だったのに対して、コチラは純愛ミステリという感じの仕上がりになっていました。どんな風に展開するのかと思って期待しながら見ることができて、こういう映画は観ているときのワクワク感がたまらなく良いですね。
エドワード・ノートンという役者はやる役によって本当に毎回毎回色々な表情をみせてくれて、今作でもなかなかの好演です。キャスト的には狂言回しとなる警察官を演じたポール・ジアマッティもかなり頑張っていて、良かったとおもいます。表情がやたら印象に残りました。
さて、この映画、「手品」の部分が、「ありえねー」という感じのネタばかりで、映画ならではなんですけど、『プレステージ』がトリックのタネあかしに終始する作品だったのに対して、この作品では、手品のトリックは謎のままにしてあって、客に幻影を見せて楽しませるというマジシャンの本質が崩されなかったのが良かったなぁと思います。
映画というメディアは、CGを使っちゃえば、どんなイリュージョンでも可能になってしまうので、そこを上手く見せるのは難しいと思うんですけど、この作品はそのあたりも上手かったと思います。
最後、どんでん返しのネタバレがものすごい勢いで一瞬で通り過ぎていくのにちょっとビックリしつつも、観終わった後に幸せ気分になれたので良かったです。
さて、観終わった後、すぐに思ったのは、果たしてミルハウザーがこういう作品を書いたのだろうか?という疑問でした。自分が読んだことある限りでは、ミルハウザーはこんなにエンタメ色の強い作品を書くイメージがなかったのでちょいと意外だったのです。
で帰宅して、早速、本棚から取り出して原作を読みました。
いやー、やっぱり全然違いました。
てか、「原作」ってつけることさえ間違ってるのではないかと思うくらいに、キャラクター名と出てくるイリュージョン以外は完全別物です。
原作は混沌とした19世紀末に颯爽と現れた謎のマジシャン、アイゼンハイムがいかに人々を驚かせたのかということを伝記風に淡々とマニアックに書くだけで(ミルハウザー作品ではおなじみの手法)、アイゼンハイム自身がどのような人物であったのかが最後まで謎に包まれているんですね。
でもって、彼のみせる様々なマジックに魅了されたり、混乱したりする人々の姿に、19世紀までの帝政を終えて、新たな20世紀という時代を迎えようとする、「時代」の姿を反映させるという、なかなか面白い作品でした。
この混乱の部分、映画でも描かれていたけど、映画ではそこに「時代性」を感じることができなかったので、ちょっと受ける印象が違いましたね。
ちなみに映画の邦題は、原作の柴田元幸訳をそのまま使っているみたいですね。これが、意外にも原作よりも、映画版のほうにピタリとマッチした邦題になっているのが面白いですね。映画はまさに「幻影師」ですよね。(同じイリュージョンは原作にも出てくるんで助が・・・)
ところで、ミルハウザー作品って実はこれが初映画化じゃないですか!?特有の「雰囲気」を描くのが上手な作家だから映画化したら面白い作品多いと思うんですけどね。
<参考過去レビュー>
映画「プレステージ」:上述のちょっと似た時代設定の奇術師映画。
映画「デス・トゥ・スムーチー」:このエドワード・ノートンは個人的には必見だと思う。
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コメント
こんばんは。
わが県では、相当遅れ馳せの、2週間限定上映でしたが、
諦めていただけに、スクリーンで観れて嬉しかったです。
『プレステージ』も好きな作品だったんですが、
(肝心のネタが「それは禁じ手」とは思ったけれど)
これを観てしまったら、やっぱりこちらが好きになっちゃいました。
ポール・ジアマッティの目線での語りから入ったせいでしょうか、
2人の悲恋に涙ぐみながら、イリュージョンのネタには興味もなく、
ラストまで完璧にジアマッティの立場で観ていたので、
>ものすごい勢いで一瞬で
思わず、声を上げそうでした。
流石、ANDREさん、この原作をお持ちだったんですね。
原作を生かして、別の作品を作って、
それがかなり成功しているって、多くない気がします。
いい素材(といっては申し訳ないですが)をベースに
違う味わいの別の作品を作り上げることって、
面白いけれど難しい仕事のように感じますが、
これは、とても巧く行った例なのでしょうね。
TB,届いていますように(祈)
投稿: 悠雅 | 2008年9月12日 (金) 20時50分
>悠雅さん
コメントありがとうございます。
この作品は、映像をはじめとした全体の雰囲気を
じっくりと味わいたいので、
劇場で鑑賞して良かったなと思える作品ですよね。
マジックのシーンは観客気分になりますし。
観る前にあまり情報を入れてなかったこともあって、
(というか、宣伝がほとんどされてないので、入ってこなかった)
どのように展開するのかがまるで分からなかったものの
悲恋とミステリが丁度良い具合で展開していて
これはかなりの拾い物だったと思います。
『プレステージ』は結構大掛かりに展開されてたのに
この作品がかなり地味な公開だったのは
かなりもったいないですよね。
ラスト、僕も声を出しそうになってました。
目も口もぽかーんと開いてしまってたと思います(笑)
この原作者のミルハウザーという作家の作風と
今回の映画はかなりかけ離れていたのですが、
同じアイゼンハイムという人物を題材にとった
別物として観てしまえば、
どちらも十分に楽しむことができる映画化で、
原作モノとしては珍しい完成度だったと思います。
TB、やはり、
勝手に「承認制」になってしまうようでしたので、
こちらで承認しておきました。
ブログによってTBの「承認」のシステムが
勝手に作動するのは何故なのかまるで謎なんですが・・・。
投稿: ANDRE | 2008年9月12日 (金) 22時38分
こんにちは♪
原作を読まれたのですね~
内容は映画と違うようですね。
映画は上手い具合に恋愛を絡めてあって、面白かったと思いました。
でも、ANDREさんがご指摘された、原作の「時代性」をもっと作品に取りこめば、より深みのあるお話になったかもしれませんね。
映画の雰囲気は良かったですし、キャストの演技も素晴らしかったですね~少し地味ではありますが、こういう映画って観ていて心地いいですよね♪
投稿: 由香 | 2008年12月26日 (金) 14時28分
>由香さん
TB・コメントどうもありがとうございます。
原作はどちらかというと、
原案という感じで、まるで違う作品なんですが、
ここまで違うと、逆に、違うことが気にならないで、
映画は映画としてはしっかりと楽しむことができましたね。
公開規模も小さかったですし、
派手さのない作品ではありますが、
観てよかったな、と素直に思える良い作品だったと思います。
投稿: ANDRE | 2008年12月27日 (土) 11時29分