「ひそやかな村」 ダグラス・ダン
ひそやかな村 ダグラス・ダン 白水Uブックス 1996.9. |
以前からちょっと気になっていた1冊です。
スコットランドの詩人によるスコットランドの田舎の村を舞台にした短編を13作収録した短編集。
牧歌的な風景を舞台に描かれる物語というと、どこか桃源郷的な空気で、おだやかなで素朴な人々が幸せそうに暮らしているようなステレオタイプなイメージがありますが、この作品が描き出すのは、もっと生々しい田舎の人々の姿。
どの作品でも、穏やかな田舎の風景の裏側に隠された村人達の本音や皮肉を、シリアスになりすぎずに、かといって、ユーモアたっぷりというわけでもなく、淡々としたテンポで描いていて、抜群に面白いわけではないけれど、1つ1つの短編は結構楽しんで読むことができました。
以下気に入った作品メモ。
・「南米」
夢を求めて夫が1人南米へと渡り、残された妻は子供を連れて、実家近くの村へと引っ越すのだが・・・、という物語。
短編集の冒頭を飾る作品で、これが一番ドラマティックで、分かりやすかったように思います。なんか、もうちょっと上手くいく方法があったんじゃないかなんて思うんですが、きっと最初から相性は良くなかったんだろうね。
冒頭からやや閉鎖的で、隠し事のできない田舎の人々を上手く描いていて、この後の作品の主題を上手く提示していたように思います。
・「庭にいる妻たち」
友人夫婦の別荘に招待された夫婦の物語。
何気ないやりとりを描くだけなのに4者4様の見え隠れする本心に結構ドキドキでした。
・「カヌー」
休暇で都会からやってくる人々を迎える村人たちの本音とは・・・。
これはかなり読みごたえがありました。落としどころも上手い。
・「ボビーの部屋」
両親が海外赴任することになり、かつて滞在した宿に預けられる少年の話。
思春期の少年がわずか数ヶ月で大人になる瞬間を皮肉的に上手く描いていました。
・「キルビニン生まれ」
生まれてから9歳まで過ごしていた故郷の町をやたらと誇りに思う中年男の物語。
ちょっとイタイ主人公なのかと思っていたのに、最後はなんとなく同情しちゃう感じでした。
・「庭を持たない女たち」
近所の庭を採点して回る仲良し老婆3人組。
絶妙な本音と建前、大小さまざまな力関係の探りあいがとても面白い作品でした。
・「釣り天狗たち」
兄と両親が暮らす故郷の町にやってきて、兄と2人釣りをすることになった男の話。
離れてしまった故郷との「距離感」。昔から皆知ってるのに、自分だけがどこか余所者な感じ。同じ故郷を題材にしつつ、上の「キルビニン生まれ」とはまた違ったアプローチで面白い作品でした。
* * *
邦題だと、静かな村みたいな感じもしますが、原題の「secret」という部分に、村人達の隠された内面が感じられて、タイトルもなかなか上手いと思います。
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コメント
この本は、私も気になっていました。
ANDREさんのレビューを読んで、より気になる度が強まりまったので、いずれ私も、手に取ろうかと思います。
それにしても、白水Uブックスは、大きい本屋にいかないと、取り揃えが少ないですよね。
投稿: ふくろう男 | 2008年8月 4日 (月) 11時32分
>ふくろう男さん
コメントありがとうございます。
派手さはありませんが、
しっとりと味わい深い短編集でしたので、
オススメです。
どちらかというと、秋の夜長の読書に合う気がします。
Uブックスの作品は、
大型店でも揃ってないことが多い気がします。
特に、出版から時間の経った作品の場合、
どのような基準で置かれているのかがよく分からない
ラインナップで並んでる書店が多いですよね。
投稿: ANDRE | 2008年8月 5日 (火) 11時06分