「ハローサマー、グッドバイ」 マイケル・コーニィ
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ハローサマー、グッドバイ マイケル・コーニィ 新潮文庫 2008.7. |
本日は梅雨明け宣言が出て、まさに「ハローサマー」ですが、かつてサンリオ文庫から出ていて、カルト的人気を誇ったという作品の新訳が出たのを読みました。イギリスのSF作品です。
舞台は人間型の生物が暮らすとある惑星。惑星にはエルトとアスタという2つの国があり、主人公の少年ドローヴはエルトの役人の息子であった。あるときドローヴの家族は父の仕事で港町のパラークシに滞在することになる。ドローヴは以前訪れた際に出会った少女ブラウンアイズと再会し、2人は恋心を募らせる。
エルトとアスタの戦争や、バラークシででのアスタからの密輸疑惑など様々な大人たちの問題が深刻化していく中、ドローヴはパラークシの人々と親しくなっていくが、役人の父親は、息子が庶民と交わることを快く思わず・・・。
架空の惑星を舞台に、少年少女の一夏を描く作品で、少年の成長を鮮やかに描きだす、恋愛・戦争・SF・ジュブナイルな物語。
わざわざ架空の惑星を舞台にする理由が最初はよく分からなかったんですが、途中から、その設定を非常に上手く使っているなぁというのが感じられて、ラストに至っては、もはやこの惑星の設定なしではあり得ないストーリーを構築していて、なかなか面白い作品でした。
作家が自分の描きたいことを最大限表現するために、いくらでも好きなように設定をいじることができるというのは、ご都合主義にもなりかねないけれど、これこそがフィクションの醍醐味であるのも事実で、細かな部分も含めて、とにかく設定使いが上手いなぁと思いました。
あと、この惑星の光景や、主人公達の息遣いが感じられる内容だったのも嬉しかったですね。恋愛物語としては、個人的にはヒロインのブラウンアイズよりもリボンのほうが気になってしまいましたけど。
ラスト近くで、思わぬ方向に話が展開して、どうなるのかとハラハラさせつつ、読後感の悪いラストではなかったので一安心。ただ、前半が設定を構築するために非常に丁寧だった一方で、この終盤になってから、語りが加速気味になってしまって、ついていくのがやや大変でした。
今回の文庫の売れ行きによって、続編の刊行が決まるようなのですが、これはラストまで読むと、同じ惑星を舞台にした話があるんだったら読みたいと思うでしょ!固有名詞とかが特殊すぎて原書で読むのも大変そうですので、続編も是非!
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
こんにちは。 はじめまして。
SFとしては突っ込みどころ満載ながら、
独特の魅力を持った傑作ですね。
「未来少年コナン」「天空の城ラピュタ」風の映像が
頭の中をよぎりました。
リボンかわいそすぎですね。
あとウルフもけっこう気に入りました。
そして唐突で意外なあのラスト、
忘れられない一作になりそうです。
拙HPでもとりあげました。
よろしければ御笑覧ください。
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/hellosummer.htm
投稿: 木曽のあばら屋 | 2008年7月20日 (日) 20時33分
こんばんわ!
確かにブラウンアイズはかわいいだけの類型的な女の子に描かれていてタカビーな魅力のあるリボンの方が目立ちますよね。でも少年ならやっぱりかわいいという一点でブラウンアイズに恋してしまうのかな?
あのラストには驚かされましたが、ではなぜリボンやブラウンアイズの父は死んでしまったのでしょうか?
ドローヴが期待するようにブラウンアイズはロリンに保護されているのでしょうか?
そのロリンは闇と極寒の40年をどうやって生きるのでしょうか?
様々な謎が残ります。
続編「パラークシの思い出」はそれらの謎に答えてくれないと思うのですが、それでもぜひ読みたいですね。
期待して待ちましょう。
投稿: piaa | 2008年7月20日 (日) 21時59分
>木曽のあばら屋さん
コメントいただきましてどうもありがとうございます。
確かに、部分的に高度な科学技術の存在する19世紀的世界観は
『ラピュタ』なんかに近いかもしれませんね。
リボンが結局、ブラインアイズの引き立て役で終わってしまい、
最終的な扱いもあまり良くなったのがリボンファン(笑)としては
残念でしたねー。
脇役も含め、キャラクターが皆魅力的なのも良い作品だったと思います。
>piaaさん
コメントありがとうございます!
TBしようと思ったのですが、うまくいかないようですので、
また日を改めて挑戦してみますね。
僕も終盤がやや駆け足気味で
上手く理解できずに
ちょっと置いていかれそうになった部分がちらほらあります。
ロリンは自分自身の毛の温かさで
寒さを乗り切ることができるのではないでしょうか。
そうなると、ロリンはかなり寿命の長い生物なんでしょうね。
包まってる間にそのロリンが亡くなってしまっては大変だろうし。
それとも一緒に冬眠なんですかね。
40年後にドローヴ起きてきたらブラウンアイズはいなかったなんて
ちょっと皮肉な結末があると、それはまた作品のカラーが
変わってきますね。
あとがきに続編は売れ行き次第なんて
はっきりと書かれてしまうと、
書店での流通量の少ない河出文庫である点や
そもそもこのジャンルではヒットが出にくい現状を考えると
心配になってきますが、
きっと続編は発売してくれるものと信じて待っています。
投稿: ANDRE | 2008年7月21日 (月) 23時09分