「ひなた」 吉田修一
ひなた 吉田修一 光文社文庫 2008.6. |
芥川賞作家の吉田修一の作品です。吉田氏の作品は、なんとなく面白そうだなと思ったものを手にする程度ですが、「パレード」が猛烈に面白かったので、似たような手法で書かれているっぽいところにひかれて読んでみました。
有名ブランド会社に就職が決まった元ヤンの新堂レイ。
レイの恋人で進路がはっきりしない大学生の大路尚純。
尚純の兄で学生時代の仲間と演劇を続けるサラリーマンの大路浩一。
浩一の妻で大路家の両親との同居を希望する編集者の大路桂子。
春・夏・秋・冬の4部構成で、それぞれの季節に4人それぞれの視点で描かれた4つの章が描き出すとある家族の日常の物語。
女性向けファッション誌に連載されていた作品ということで、全体的に女性好みの題材が多い印象です。
「パレード」同様に、語り手が変わることで、同じ出来事が違った視点で描かれて、本音と建前に満ち溢れたスリリングさがあるかと思ったんですが、特にそんなものはなく、割とあっさりとした作品でした。ちょっと物足りない。
4人それぞれが周囲には見せない自分だけの秘密やプライベートな空間を持っているってのが描きたかったのかなぁ。
全体にいくらでも長くできるストーリーだったと思ってたら、ラストに向けて、とある人物の物語を加速させたことで、上手く着地した感じでした。でもって、ますますドロドロしたっていう・・・。
これ、主人公達が自分と年齢が近いんですけど、あいにく家庭を持っていない自分には、もう1つ共感しかねる部分も多かったんですよね。
最後にジェーン・オースティンを出してますが、オースティンの作品はそれぞれのキャラクターの織り成す緻密な人間ドラマが推理小説のようだと言われることもあるくらいで、この作品が目指したものがそこにあるのかなぁという感じがしますが、そうなると、やはりちょっと物足りないかなぁ。
ただ、円満そうに見える人間関係が、実にあやういところに成り立っているという現代的な不安を上手く描いていたように思います。
* * *
参考過去レビュー
ルームシェアをしている5人の若者達それぞれの視点で描かれた5章で構成される物語。かなり面白くて、メチャメチャお気に入りの1冊です。
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