「砂漠」 伊坂幸太郎
砂漠 伊坂幸太郎 実業之日本社 |
伊坂幸太郎の作品が新書化。基本、文庫派な自分ですが、もはやこれ以上待つことはできず、本棚での並びバランスも諦めて、早速購入し、他に読んでる本があったのに、最優先で読んでしまいました。
主人公は仙台の大学に入学した北村。合コンしたり、麻雀したり、学祭で一騒動あったりと、同じ学科の個性的な仲間たち4人とのキャンパスライフを描く作品。
伊坂幸太郎の作品はどれも面白いのですが、これは久々にホームラン級の大ヒットです!
とにかく1つ1つのエピソードが面白い、出てくるキャラクターたちが皆味わい深い!自分が彼らと一緒に、この冒険にあふれた学生生活を送っているかのような錯覚を味わわせてくれる作品でした。
そして、今回は青春小説なんだなと思って、油断しているところに、ドカーンと強烈な一撃が。伊坂幸太郎の仕掛けた罠に見事にはまってしまいました。ここまで気持ちよくはまってしまうと、逆にすがすがしい気分です。すぐに最初から読み返して、ちょっと違和感を感じた部分も全部きれいすっきり解消されて、見事な構成力に改めて脱帽です。
トリックに関していえば、たとえば、「秋」の章での莞爾の台詞なんかは極めて秀逸だと思います。
登場するキャラで抜群の存在感があったのはやはり西嶋。もう、彼の語り口のうざいのなんの。こんな友達がいたら厄介なこと極まりないですが、でもたまに弱みも見せてくるような人間っぽさがたまらないですね。
作中で気になった一節。売れる小説の条件としてあげているのが、「ユーモアと軽快さと、知的さだ。洒落ているだけで、中身はない。」という言葉。いやいや伊坂さん、自虐過ぎですから!これこそ、「なんてことは、まるでない。」ですよ!
語り手の北村君が、名前だけあげて作中では記述していない様々なできごとも読んでみたいなと思いつつ、たとえば、「西嶋と鳩麦さんと一緒に豚汁を作った時に、蛇を見つけて大騒ぎになった話」とか、想像するだけでワクワクしてしまうのは、やはり、各登場人物のキャラクターが見事に描かれているからだと思います。
* * *
今回の作品、読みながらいつもの伊坂作品とはちょっと違った趣のように感じたんですが、大学生が主人公で、独白形式で皮肉な文体を交えつつ、個性豊かな仲間たちと、様々な事件に遭遇するってのは、まんま森見登美彦の得意分野ですよね。
森見作品とはまた違った伊坂節全開の作品で、個人的には「砂漠」のほうが好きですが。
この手の学生気分を思い出させてくれるワイワイした作品は読んでいて非常に気持ちが良いです。自分、大学という建物には通っていますが、院生にはもはや大学生のような気楽さは皆無ですからね。
僕も大学時代は仲間たちと、結構色々なことをして遊んでたなぁとか思い出してみたり。懐かしいなぁ。うっかり部室に行ってしまったがために1日授業出ないで遊んでしまった話や、勢いで終電でお台場に行って意味もなく海を見ながら7人で徹夜トークしてたら酔った自称ジャーナリストにからまれて大変だった話もあるけれど、この作品の感想はこのくらいにしておく。
<参考過去レビュー>
大学生を描く作品を。
京都の大学生たちの、バカバカしい事件にあふれた大学生活を、ひねくれた文体で愉快に描く作品。
「きょうのできごと」 柴崎友香 (映画はコチラ)
大学生の、徹夜で誰かの家で飲むときの雰囲気を完全に再現した作品だと思います。映画版も大好き。
「神戸在住」 木村紺
こちらはコミック。小説類も含めて、僕が好きな書物TOP10に入るのは確実なくらいに大好きな作品です。神戸の大学に通う主人公と仲間たちのほんわかとした日常を丁寧に綴った作品。
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コメント
こんばんは。
先日、わたしも書店店頭の、一番目立つところで、
この新書が並んでいるのを見てたところでした。
伊坂作品の単行本を全部持っている娘が積極的に貸してくれたので、
幸いにも読むことができました。
わたしは大学生活の経験がないので、彼らのキャンパスライフが羨ましくて、
その中で起こる事件と時間経過に、またまた騙されてしまいました。
それにしても。
西嶋くんのインパクトは凄かったですね。
友人に、絶対要らないような、是非欲しいような特異なキャラクター。
作品の中では、最大級の愛おしさ(笑)ですが、
もし実際に側にいたら、めっちゃ鬱陶しいでしょうね。
投稿: 悠雅 | 2008年8月 8日 (金) 21時29分
>悠雅さん
コメントありがとうございます。
この作品も、またまた面白かったですね!
騙されるのがこんなに嬉しい作家もそうそういないですよね。
今回は、仕掛けがあることなんて考えてもいなかったので
全く予期しないところで騙されてしまい、
読みながら1人ニヤニヤしてしまいました。
西嶋はもう、なんというか、
伊坂作品の中でも抜群のインパクトですよね。
あの口調からして、わずらわしいのなんの(笑)
投稿: ANDRE | 2008年8月 9日 (土) 00時35分
こんにちは。
ひさしぶりに日本作家でも読もうと思って、「砂漠」読みました。
この時間感覚がいいですよね。
ああ、日本の大学生って、こういう時間を過ごすよなあと。
院生になってからは、半分仕事人・半分無職というような、奇妙な位置づけになっている気がします。
院生を書いた物語でもないだろうか。・・・
投稿: ふくろう男 | 2008年8月28日 (木) 13時05分
>ふくろう男さん
コメントありがとうございます。
大学時代のゆるいけど、一生懸命な感じがよく出ている1冊ですよね。
院生は学内でも教授陣と学部生の間の微妙な立ち位置ですよね。同じ建物に通っているとは思えないくらいに「気楽さ」の度合いが違います。
院生小説は暗くなるだけな気が(笑)。「京大M1物語」というコミックがあるのですが、読んでいたら、ギャグになってる部分が全く笑えない自分がいました。
投稿: ANDRE | 2008年8月29日 (金) 01時01分