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2008年11月12日 (水)

「宇宙飛行士ピルクス物語」 スタニスワフ・レム

宇宙飛行士ピルクス物語(上) (ハヤカワ文庫 SF レ 1-9)  宇宙飛行士ピルクス物語(下) (ハヤカワ文庫 SF レ 1-10)

宇宙飛行士ピルクス物語 上・下
(Opowiesci O Pilocie Pirxie )

スタニスワフ・レム
(Stanislaw Lem)

ハヤカワ文庫SF 2008.9.
(original 1971)  

最近、早川さんは名作の復刊・文庫化に精力的な様子ですが、これもそんな流れで出版されたと思われる作品。

作者は映画化もされた「ソラリスの陽のもとに」でもよく知られているレム。現在のウクライナの出身ということですが、アメリカとしのぎを削って宇宙開発をしていたソ連のSF作品を読むのはもしかしたらこれが初めてかも

(注:コメント欄でご指摘いただきましたが、レムは生まれこそ現ウクライナ領ですが、その後移住しポーランド人となっているとのことです。「ソ連のSF」というのは誤りです。)

作品は連作短編の形になっていて、タイトル通りにピルクスという宇宙飛行士が訓練生として飛行訓練を受ける頃からはじまり、彼が宇宙で遭遇する様々なできごとを描きながら、ピルクスという男の半生を描いていく作品。

短編とはいうものの、100ページ以上ある作品もあり、どちらかというと、連作中編みたいな感じですかね。上下巻と結構なボリュームがありましたが、どの話も面白くて、かなり楽しめる1冊でした。

これ、オリジナルの出版が37年前なんですが、扱っている問題はむしろ技術が発展している現代にこそ様々な問題を投げかけるようなことばかりで、一つのエンターテイメントとしても十分すぎるくらい面白いんですが、それと同時に、色々なことを考えさせてくれる作品でもありました。

解説にも書かれていたけれど、全体的にロボットをはじめとして技術の捉え方が現実的な話が多くて、荒唐無稽なSFという感じじゃないところに好感。

以下気になった作品にちょっとコメント。

・「テスト」
訓練生時代のテストの話ですが、これ、10頁ほど読んだ時点で予想したその後の展開とほとんど違わない内容だったため、ちょっと拍子抜けしてしまった感はあるんですが、なかなか面白かったです。

・「パトロール」
飛行士達の失踪の謎にせまる話。
「ポ○モン!」と思ってしまったのは僕だけでしょうか・・・。
(読めば分かるかと思います。)

・「テルミヌス」
かつて大惨事のあった宇宙船に響くモールス信号。
ミステリアスホラーな感じで、ハラハラドキドキさせる話でした。
これは4話目なんですが、この時点で、ひきだしの多い作家だなぁと実感。

・「狩り」
月に滞在していたピルクス。突然の放送で火器を扱えるものが呼び出されたその顚末とは。

これが一番好きかなぁ。アシモフのロボットシリーズが好きなので、こういうロボットものは結構好きなのです。なんといってもラスト!

・「事故」
地球によく似た惑星に滞在していたピルクスが遭遇した事件。
これもロボットものですね。「狩り」同様、この作家のロボット観が結構好きかも。

・「審問」
収録作中一番長い作品。いきなり法廷モノで始まり、実験的にアンドロイドを乗せて航行することになったピルクス艦長のお話。果たしてアンドロイドは誰?乗員さんたちがピルクスに個々に話にきたりして、なかなか楽しませてくれる物語でした。

他の話もどれも面白かったのですが、これどのくらい先の未来を考えてるのかと思いきや、タイタニックから100年という記述が。割とまさに今現在くらいが舞台なんですねぇ。宇宙関係って、当時思い描かれたよりもずっとずっと遅れてますよねぇ。

読んでいてちょっと思ったのはどの話も導入部分とクライマックスはとても面白いのに、ちょっと中だるみがあるというか、真ん中辺りで一瞬挫折しそうになってしまうんですよね。レムの語り方の癖みたいものがあるのでしょうか・・・。でも、そこを乗り切ると、どの話もグンと面白さ増すというのが全体的な印象。

ちなみに同作者の「ソラリス」は大学1年のときに、暇な時間に訪れた大学図書館のAVルームで映画版を見ました。映像美とあわせて、長い作品だったことと、思いがけず哲学的だったことでやたらとインパクトが強く、授業の合間に一体何を見てるのやらと我ながらツッコミそうになる不思議な気分になったのをよく覚えています。

こちらも原作がとても良い様子なのでちょっと機会があれば読んでみたいと思います。

<参考過去レビュー>

なんか良いのがなかったので適当にコメントを。

連作短編SFといえばなんといっても「火星年代記」が大好きです。翻訳版も素晴らしいんですが、原書でも何度も読んでます。「夜の邂逅」という話が好きすぎて何度読んだか分からない感じ。そんなわけで、今度読んだときには火星年代記の記事でも書こうかなと。

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コメント

私も「狩り」が一番好きです。内容も面白いのですが、なんといってもあの作品に出てくる、月面の描写のリアルなこと。音もなく、銀色と黒だけで描かれた映像が心の中に浮かぶようです。
「審問」も強烈な印象を残す作品ですね。これは映画化もされているようです。

私は昔出たハードカヴァーを持っていますが、長年のファンとしては今回の文庫化には大変驚き、うれしく思いました。今回は大野典宏氏の改訂で読みやすくなっているそうなので私も買おうかなと思っています。他の作品も出してくれないかな。

ちなみにレムの生まれたルヴフは、当時ポーランド領で、戦後ソ連に割譲され現在はウクライナ領。レムは戦後ルヴフが当時のソ連領になったあとはクラクフに移住していますので、彼はポーランド人です。彼の作品は「ソ連SF」ではありません。

投稿: piaa | 2008年11月12日 (水) 12時33分

>piaaさん

コメントありがとうございます。

レムはpiaaさんが絶賛していたのでこの機会に是非読んでみようと思い読ませていただきました。

「狩り」はおっしゃられるように月面の描写も良かったですね。月面世界の様子を上手く物語に取り込んでいたのも印象的でした。

「審問」は映画化されているんですか!ちょっと気になりますね。このシリーズ自体、連作で映像化されても良いような気がします。

解説によると、文庫化にともなって一部、現代にあわせて語の置き換えなども行っているようなので、文庫版をお読みになられた際には、改訂前後の印象の違いなどのお話をお聞かせください。

こちらの曖昧な知識で勝手にソ連SFなどと書いてしまいましたが、ポーランド人なんですね。「ソラリス」の映画がソ連映画だったので、勝手にソ連作家だと思い込んでました。ご指摘ありがとうございます。記事のほうにも訂正を入れておきます。

投稿: ANDRE | 2008年11月14日 (金) 01時42分

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