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2008年12月20日 (土)

「天使の蝶」 プリーモ・レーヴィ

天使の蝶 (光文社古典新訳文庫)

天使の蝶
(storie naturali)

プリーモ・レーヴィ
(Primo Levi)

光文社古典新訳文庫 2008.9. 
(original 1966)

イタリアの作家による短編集。光文社の古典新訳文庫は、これまでも、非常に面白いイタリアの短編小説の良作を出しているので、これは読む前から期待が高まる1冊。

収録されているのはシリーズものや戯曲を含めた全15編。

不思議な発明品が出てきたり、人間の秘められた狂気の部分をえぐり出すような落しどころがあったり、なかなか面白い1冊でした。人間というものに対する眼差しが、結構厳しい印象があって、皮肉めいた作品も多いのですが、作者のアウシュビッツから生還した化学者という経歴が関係しているのかもしれません。

以下面白かった作品メモ。

・「ビテュニアの検閲制度」
人間に代わって新しく検閲をすることになったのは・・・。

ラスト、予見されたオチではあるけれど、インパクトのあるユーモアがすがすがしい作品でした。

・「天使の蝶」
表題作。人間がまだ未熟なサナギの状態だとしたら・・・。

戦時中ってこういう実験が本当になされてそうなのが怖いところです。

・「低コストの秩序」
この短編集にいくつか収録されているアンダーソン氏を主人公にしたNATCA社の不思議な発明品シリーズ。

品物を完全にコピーできる機械の話。こういう立体コピー機、単純に形だけを3次元で複製するのはもう実現してるんだよね。以前テレビで複製していく過程をやっていたんだけど、その様子がまさにここで描かれているものそのものでした。

物語としてはひっそりと創世記になってるのが面白いです。

・「<ミメーシン>の使用例」
1話間にはさんで、まさかの「低コストの秩序」続編。なかなか面白い構成の1冊なのだとここで気づく。

この機械があれば当然出てくるであろう内容を描いた話ですが、結局、人の欲望は倫理感にも勝さるというのは、この短編集全体に通していえるテーマなんですかね。

・「転換剤」
快楽と苦しみの感覚を入れ換える薬の話。

お、マクベス。

・「眠れる冷蔵庫の美女」
冷凍されて睡眠状態になっている美女を描く戯曲。

こういう装置、実際にあるようなことを以前テレビで見ました。オチが面白い。

・「退職扱い」
ラストを飾るのもまたシンプソン氏とNATCA社のシリーズ。今回の発明品は記憶を記録して、それを脳内で再生できる機械。

これはよくテレビの「世にも~」なんかに出てくる機械ですよね。「世にも~」で殺人者の記憶が入ってたとか、そんなブラックなのがあったような気がします。

この作品でも人間の欲の怖さが描かれてましたね。この辺りは作者のアウシュビッツ体験と無関係とはいえない気がします。

さてさて、ここで出てきた発明品を見て思い出したのは、近頃のニュース。目で見て脳内で処理されてる視覚映像を、脳の血流変化を読み取って映像として画面に出力できる技術が開発されたというもの。なんだかこういうSFが実現可能な感じになってきてるのが怖いような楽しみなような今日この頃。

不思議な発明品シリーズがドラえもんぽいという意見も多いようですが、個人的には、シニカルでブラックな落しどころが、藤子F不二雄のSF短編に似てるなぁと感じました。いつまでも心に余韻が残るような感じ。

* * *

参考過去レビュー

古典新訳文庫のイタリア短編作品シリーズを。どちらもとても面白いです。

「猫とともに去りぬ」 ロダーリ

「神を見た犬」 ブッツァーティ

ついでに似た感じの雰囲気の短編集も。

「壜の中の手記」 カーシュ

「隠し部屋を査察して」 マコーマック

「海に住む少女」 シュペルヴィエル

さらにコミックの短編集も。

「バニーズほか」 笠辺哲

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コメント

こんばんは。光文社のイタリア文学は、おもしろいチョイスをしてくるので、いつもひそかに楽しみにしています。

この系列でいくと、ランドルフィとか次にきそうかな、とかちらりと思ってみたり。
モラヴィアとかも、著名なわりに、あんまり手に入らないですよね、入れてくれないものでしょうか。

「退職扱い」のお話で思い出したのですが、脳をインターネットにつなげるとしたら、やってみたいですか?というアンケートで(確かアメリカだったと思います)、30%近く(うろ覚えです)がやってみたいと答えたそうで。数が多いなあとびっくり。そういう時代なんですね。

投稿: ふくろう男 | 2008年12月22日 (月) 03時02分

>ふくろう男さん

TB,コメントどうもありがとうございます!

新訳文庫は本当に、他は結構メジャーな作品が多いのに
イタリア文学だけマニアックですよね。
毎回、次回配本が楽しみです。

脳をインターネットに・・・
変なウィルスとか入ってきたらどうするんだろとか
色々と怖いですけどねぇ。
将来的には決して実現不可能ではなさそうなところがまた怖いです。


そういえば、ディック原作の「トータルリコール」って映画は
頭に機械をのせて、記憶を疑似体験できるって内容でしたね。
この手のネタはみんな好きですけど、
あくまでSFの世界でとどめて欲しいと思う自分は
やはり20世紀の人間なんでしょうか。

投稿: ANDRE | 2008年12月23日 (火) 13時56分

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[自然界に人間] イタリアの化学者かつ作家であるレーヴィの短編集。 著者は、第二次世界大戦中、ユダヤ人としてアウシュビッツに収容さ... [続きを読む]

受信: 2008年12月22日 (月) 03時03分

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