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2008年12月25日 (木)

「絶対、最強の恋のうた」 中村航

絶対、最強の恋のうた (小学館文庫)

絶対、最強の恋のうた

中村航

小学館文庫 2008.11. 
(original 2006)

中村作品は河出文庫で出ている3部作がとても好きなんですが、こんなちょっと読もうかどうか迷ってしまうようなタイトルだったので、ちょっと不安を感じつつ読んでみました。

浪人をして大学に入った大野は、文化祭で出逢った少女に恋をし、やがて2人は付き合い始める。そのことに浮かれていたことに気づいた2人は、付き合い方を見直そうということになり、週に3度の電話と週末のデート以外は会わないようにしようと決める。

最初の2章は大野の視点から、続く2章を同じ物語を彼女の視点から描き、最後の1章は大野の友人坂本の物語が描かれる。

世界三大美徳のうちの一つ、仲良し。

「100回泣くこと」では、近頃流行りの「純愛」もののプロットを使いながら、とても爽やかな作品に仕上げていた中村氏ですが、今回は、そんな「純愛」作品で描かれる恋人同士とは対極にあるような付き合い方をする大学生2人を主人公にした作品。

しかも、これ、恋愛小説のようでいて、2人のシーンはとても少なくて、大野君が主人公の最初の2章は、どちらかというと、大野とその友人の坂本と木戸の3人の青春物語といった雰囲気(ちょっと森見登美彦っぽい)。一方の彼女が主人公のパートは、大野君と付き合うことを通して、彼女自身が成長していく姿をメインに描いて、やはり彼女の日常生活にかなりの重点を置いた描き方。

実際、2人がどうのこうのうという場面よりも、この彼らの日常を描く部分の「大学生」的な雰囲気がとても上手く描かれていて、バカなんだけど一生懸命な若さが感じられる青春小説に仕上がっていたと思います。

タイトルからして純朴な恋愛を描く作品だと思わせつつ、2人が共有していない時間に重きを置いた物語で、その中での2人の成長を描くことで、背景に隠れた恋愛物語をしっかりと感じさせてくれる描き方が非常に面白かったです。

で、全部で5章ありますが、自分が一番好きだったのは第1章の「スクランブル」。冒頭の大学に入学する前の浪人生活が終わって皆で胴上げをするエピソードがなんともいえずに心に残ります。その場の空気感がとてもよく伝わるというか。

あと、もみじ饅頭のやりとりとか、富士山とか1つ1つのエピソードがどれも微笑ましいんですよね。

そしてそして、「仲良し」。大人の人間関係を描いた作品で、こんなにストレートに、ただ「仲良し」であることの素晴らしさを描く作品ってなかなかないのではないでしょうか。「仲良し」、僕も大切だと思います。

中村作品は、初期の河出文庫の3部作がやはり素晴らしいんですけど、さらりと読める軽さの中に、センスの良い無駄のない描写の数々が光っていて、とりわけ20代前後の雰囲気の描き方が抜群に上手くて、結構好きな作家です。ま、小学館文庫の2冊はちょっと軽すぎな気もしないでもないですが・・・。恋愛をテーマにしないほうが良さが出ると思うんですけどねぇ。

* * *

参考過去レビュー

「くるくるまわるすべり台」
僕が一番好きな中村作品。これは本当に素晴らしい。

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