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2008年12月 7日 (日)

「フルタイムライフ」 柴崎友香

フルタイムライフ (河出文庫) (河出文庫)

フルタイムライフ

柴崎友香

河出文庫 2008.11. 
(original 2005)

「きょうのできごと」で原作にも映画にもどっぷりとハマって以来、柴崎さんの作品は文庫になったものは全部読んでいるのですが、今回は200ページを越える長編ということで、どんな作品なのかとても楽しみにして読んでみました。

(余談ですが、最新号の「文藝」が柴崎友香特集なのでちょっと嬉しかったりします。)

主人公の喜多川春子は美大を出て、社会人になったばかりの23歳。会社では社内報を作成しつつ、先輩らとともに様々な雑用をこなし、プライベートでは大学時代の友人たちと集り、趣味でデザインを続けたりと忙しい日々を過ごしている。主人公が過ごす5月から2月までの10ヶ月間の日々を描く作品。

もはや柴崎作品では定番の、「何も起きない小説」なんですが、いつもながらに、「何も起きない」日常を素晴らしいまでに過不足なく描いて、無駄のない描写と、会話や行間からあふれ出る様々な思いを読むのが大変心地よい作品でした。

読後も、ずっと続いていくであろう主人公の日常をそれこそ彼女が書くをブログをたまにふらっと読むような感じで、追いかけていきたいなと思わせてくれたのも嬉しかったです。

この作品、10ヶ月の各月がそれぞれ1章ずつで全部で10章からなってるんですけど、各章が描くのはそれぞれ1日だけだというのも面白いなと思いました。

それぞれの章が、本当にその日の日記みたいな感じで描かれて、その前の章で描かれた1日と、その章が描く1日との間に起こったできごとを明確には描きはしないのに、ちょっとした会話や、描写の中から、そこで起こったであろう様々なできごとが推測されるという書き方がとても上手い。

個人的には現実に存在する商品名などの固有名詞を多用する作品はあまり好きではないんですが、この作品では、固有名詞が登場人物たちの性格などを描くのにとても効果的に使われていたので、それもあまり気になりませんでした。

OLの生活なんて自分にはそれこそテレビドラマ程度の知識しかないものだけど、プライベートの交友関係も割と充実している主人公を描いていて、会社もプライペートもそこそこに両立させて楽しんで生活ができる主人公はなかなかの幸せ者なんだろうなぁなんて思ってみたり。

一番好きなエピソードは10月の常務との会話のところかなぁ。

他社の営業の人が個人的には結構お気に入りキャラだったのですが、ちょっと残念展開でした・・・。

* * *

参考過去レビュー

この作品を読んでいて、ずーっと思い浮かべていたのは、僕が好きで好きでたまらなくて、何度読み返したか分からない傑作漫画「神戸在住」。

主人公の日常を描くという点や、美術系の主人公である点、舞台が関西など、設定上の共通点も多いのですが、読んでいるうちに、主人公だけではなくて、割と多い登場人物の一人一人がいとおしくなってくるような描き方や、人と人との関係をサラリとしかし丁寧に描き出すところなんかも似た雰囲気だなぁと。

「神戸在住」 全10巻  木村紺

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