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2008年12月10日 (水)

「シチリアを征服したクマ王国の物語」 ディーノ・ブッツァーティ

シチリアを征服したクマ王国の物語 (福音館文庫 S 54) (福音館文庫)

シチリアを征服したクマ王国の物語
(la famosa invasione degli orsi in sicilia)

ディーノ・ブッツァーティ
(Dino Buzzati)

福音館文庫 2008.5. 
(original 1945)

岩波少年文庫や福音館文庫といった児童書系の文庫はたまにチェックすると、面白そうな作品が目白押しで、今回、気になった作品を思い切っていくつか購入してみました。これも、その中の1つで、イタリアの作家、ブッツァーティの作品です。

王子である子グマを人間にさらわれてしまったクマの王様レオンツィオは食糧不足になったのをきっかけに、山を下りて、人間達の暮らす平地へと向かっていった。人間達との戦いに勝ったクマたちはシチリアで暮らし始め、王は王子のトニオを探しはじめる。宮廷の占い師からクマたちの味方に寝返ったように見えたデ・アンブロジイース教授の策略の中、はたして王子は無事見つかるのか、そして、クマたちの運命は・・・。という物語。

ブッツァーティは以前読んだ「神を見た犬」という短編集がとても面白かったのですが、このような童話作品も非常に面白いです。そして、なんとビックリ、挿絵もブッツァーティ自身の手によるもの。いやはやなんとも多彩に作家さんです。

物語が割と波乱万丈の展開で、何が悪で何が善かというのがはっきりと区別されないような描き方がなかなか面白かったですね。そして、デ・アンブロジイーズをはじめとして、人間の複雑な感情の変化がとても上手く描かれていて、読み応えのある作品になってました。

ラストまで先の読めないストーリーだったのも面白かったですね~。

あと面白かったのは、結構ネタバレが多い書き方だったこと。冒頭に登場人物の紹介があるのですが、それが、結構物語の内容をばらしてしまってるんですよね。しかも、途中途中にある挿絵やそれについている説明文も、余裕で数ページ先の展開を示ていたりしたり。

しかし、それでも先が読みたくなる物語で、ネタバレが逆に「本編ではどういう風に描かれてるのかな」という好奇心をかきたてるような、ちょっと独特の語りのテンポなのもあって、夢中で最後まで読んでしまいました。

ま、一部、ネタバレのせいで、せっかくのドラマチックな展開が台無しな感じのとこもありましたが・・・。

先ほど、独特のテンポがある語りと書いたのですが、この作品、韻文と散文が入り混じって書かれてるのもまた面白いところ。吟遊詩人が途中歌をつけて物語を語っているような雰囲気とでもいいましょうか、味わいぶかい作品になっていたと思います。

うん、ブッツァーティ、面白いですね。『タタール人の砂漠』も読みたいなぁ。

* * *

参考過去レビュー

「神を見た犬」 ブッツァーティ

古典新訳文庫から出ている短編集。こちらも傑作ぞろいです。

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コメント

こんばんは。

あの、異常に詳しい登場人物(動物)紹介はなんなんでしょうね。
巻末の「さし絵のもくじ」もやたら丁寧ですし。

『タタール人の砂漠』、この流れで文庫化してくれないかなぁ、とちょっと期待しているんですが・・・。

投稿: ぐら | 2008年12月11日 (木) 22時56分

>ぐらさん

本当、 冒頭がいきなり
詳細な人物紹介だったので、ちょっとビックリしてしまいました。
しかもネタバレしてるし・・・。

自分も「タタール人の砂漠」の文庫化を切に願ってます!!

投稿: ANDRE | 2008年12月12日 (金) 01時50分

こんにちは。コメント&トラックバックありがとうございました。

ブッツァーティの小説作品から、かなりブラックな内容なのかと思っていたのですが、思いのほかストレートな童話でしたね。ただ、物語の演出が非常に上手いので、ANDREさんの書かれているように、話の予想がつきつつも、最後まで面白く読めました。冒頭の紹介部分もよかったと思います。
そして、なんといっても挿絵の魅力は大きいですね。登場人物たちの細かい動作や様子に神経が凝らされていて、眺めていて飽きませんでした。
ブッツァーティの他の絵画作品も見てみたいものです。

『タタール人の砂漠』もいい作品だと思いますけど、個人的には未訳の短篇をもっと訳してほしいですね。

投稿: kazuou | 2008年12月13日 (土) 19時20分

>kazuouさん

コメントどうもありがとうございます。

本当に楽しく読める1冊でした。

本文と照らし合わせながら挿絵を眺め、
次に挿絵をじっくりと長めながら
本文では描かれていない物語を楽しみ、
久々に挿絵を見るたのしみを味わえたように思います。
これは作者本人による挿絵だというのも
大きかったように思います。

ブッツァーティ、他の作品もとても気になります!

投稿: ANDRE | 2008年12月14日 (日) 00時35分

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