「マーティン・ドレスラーの夢」 スティーヴン・ミルハウザー
マーティン・ドレスラーの夢 スティーヴン・ミルハウザー 白水Uブックス 2008.8. |
これは単行本が出たときからずっと読みたくて、原書で読もうかなと何度も思っていた1冊。いつの間にやらUブックス版が刊行されているのを発見して嬉しくなって速攻で購入してしまいました。
最近では、「幻影師アイゼンハイム」の映画版が公開されたことも記憶に新しいミルハウザーですが、これはピュリッツァー賞受賞作ということで、かなり気になっていた作品。
舞台は19世紀末のニューヨーク。主人公、マーティン・ドレスラーは葉巻店の息子として生まれ、やがて、ホテルで働くようになり、実業家として成功し、「夢のような高みにのぼりつめ」ていく。物語はマーティンの少年時代から綴られ、彼が出会う姉妹とその母親との関係などを描きながら、彼の成功を描いていく。
ミルハウザーといえば、緻密な描写が印象的なのですが、今まで読んでいたのが短編ばかりだったので、どのような長編を書くのかがとても楽しみでした。で、まぁ、長編でも基本同じでした。
ただ、ミルハウザー作品って、ちょっと引いた視点で淡々と良く言えば緻密に、悪く言えばチマチマと描かれるイメージが強くて、長編でも同じ手法だったので、ちょっと好き嫌いが別れるところかもしれません。(実は自分がミルハウザーはそこまで得意ではなかったりします。)
ただ、19世紀末~20世紀初頭のNYを舞台にした物語そのものはとても面白くて、現実の世界が舞台になってはいるものの、どこか架空の大都市を描いているような雰囲気なんかはとても好きでした。ミルハウザー作品はいつも、この「空気感」とか「雰囲気」の描き方に天才的な上手さを感じます。
あと、主人公のマーティンその人よりも、彼が作る商業施設の数々がとても魅力的で、それを想像しながら読むのがとても楽しい1冊でもありました。一箇所にとどまらず、ひたすらに夢を追い求めていく主人公の夢が結晶されたものですからね。
訳者の柴田氏も書いていますが、NYというと上へ上へとのびていくビル群のイメージが強いけれど、この作品では下へ下へとのびていく世界のほうがずっと夢に溢れていて、魅力的なのも面白かったですね。空調とかちゃんとしてないとちょっと辛そうですけど・・・。(注:こういう現実的なことを言ってたらこの作品は楽しめません)。地下なんだけど、巨大宇宙ステーションみたいなイメージが勝手にできちゃったり。あと、1つの世界を構築したいというのは、なんといっても、ディズニーを思い出しますよね。
そんな部分も含めて、タイトルが「マーティン・ドレスラーの夢」ですが、一葉巻屋にしかすぎないマーティンが見ている夢を描いてるのかなと思うような、上述したような現実世界なんだけど、どこか幻想的な感じが独特なんですよねぇ。
あと、主人公が出会う女性たちとの関係が、実はあんまし好きじゃありませんでした。女性たちがよくついていくなぁと。ま、大成功をおさめるような人って、ちょっと周りの人からしたら、ついていけないようなタイプの人が多いのかもしれませんが・・・。
物語の落しどころが、冒頭で主人公が成功することを書いてしまっているので、どう進むのかと思いきや、単なる成功物語で終わらなかったので、終盤はなかなかの読み応えがありました。
余談ですが、これ、前半部分を読んでるときに、たまたまホテルのロビーで読む機会があって、周りにいるフロントやらボーイさんやらを無駄に意識してしまった自分なのでした。
* * *
参考過去レビュー
映画「幻影師アイゼンハイム」
ミルハウザー作品まさかの映画化。
そして、あまりにも原作と違うのに映画は映画で結構面白い1本。
ミルハウザーは何冊か読んだけど、「三つの小さな王国」が一番好きかなぁ。
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