「小説の読み方」 平野啓一郎
小説の読み方 平野啓一郎 PHP新書 2009.3. |
平野氏のブログで以前出た「本の読み方」の第2弾が出たことを知りました。
小説家である平野啓一郎氏自らが、ブログなどで感想を書く際に役立つようにということで、小説を読む際に、どういう点に着目するとより深く読み解くことができるのかということを解説した1冊。
前半が基礎編として、概説的なことを書いていて、後半は実践編と称して、実際に9作品を取り上げて、それぞれから引用された部分をテキストとして用いながら、具体的な話を展開していて、色々と面白い議論も多い1冊でした。
実は、この本、スルーしようかなとも思ったんですが、実践編の中で扱ってる作品に、オースターの「幽霊たち」とマキューアンの「アムステルダム」という自分のお気に入り作品があったので、ついつい読んでしまいました。
他にもエンタメ小説を読む題材として、伊坂幸太郎を出してくれたのはとても嬉しかったんですが、文庫専門読者としては未読の「ゴールデンスランバー」はたとえ一部であっても読みたくなかったので、その章は飛ばさせていただきました。
ケータイ小説「恋空」までもじっくりと読み解いているのはとても興味深かったんですが、表作ったりするのはやりすぎじゃないですか(笑)?あと、ちょっと思ったのは、ケータイ小説は改行の多さと共に、横書きであることも重要な要素だと思うので、できればこの部分の引用は横書きを採用していただきたかったです。あと、どんなに頑張って読み解いても、好き嫌い以上の問題もあるように思ってしまうんですが・・・。
前著、「本の読み方」の際に、スローリーディングを提唱しているのに、速読用の演出ともとれる太字を入れるのはどうなのかということを書いたんですが、今回は、太字がなくなっていて、個人的にはちょっと嬉しかったです。
あと、1つ取り上げて欲しかったのは、割と翻訳モノも多く取り扱っているので、「翻訳で読むこと」という部分にもメスを入れて欲しかったかなと思います。たとえば、必ず主語を要求する英語と、主語の省略が可能な日本語とでは必然的に小説の表現方法に違いが生じると思うんですが(主語省略ができる日本語の方が、語りの視点を動かしやすいなど)、そういったテクニック的な部分を含めて、翻訳論的な話も読んでみたかったです。
ちなみにオースターの「幽霊たち」、平野氏は言及してませんでしたが、登場人物たちがカラフルな名前な一方で、舞台となっているNYの描き方は、モノクロな印象を与える描写が多いんですよね。平野氏の論点は、全体を通して、人物描写やプロットの進め方、「語り」に関するものが多くて、こういう舞台設定なんかに関する議論が少なめだったのもちょっと物足りなかったところです。
そんなわけで、この新書を読んだことで、今後、このブログのレビューが何か変わればいいんですが・・・。
■参考過去レビュー
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