« 映画「幸せの1ページ」 | トップページ | 映画「ラ・ボエーム」 »

2009年3月11日 (水)

「回想のブライズヘッド」 イーヴリン・ウォー

回想のブライズヘッド〈上〉 (岩波文庫) 回想のブライズヘッド〈下〉 (岩波文庫)

回想のブライズヘッド
(brideshead revisited

イーヴリン・ウォー
(Evelyn Waugh)

岩波文庫 2009.1./2009.2.
(original 1945)

イーヴリン・ウォーを読むのは「大転落」に続いて2作品目。作風からもうちょっと古い作家なのかと思ってしまうんですが、20世紀の作家なんですよねぇ。

余談ですが、この作品、今月映画版のDVDが出ます。エマ・トンプソンが出てるということで、公開を楽しみにしていたのに、まさかの未公開DVDリリースに・・・。しかも『情愛と友情』とかいう謎の邦題がついてます。

映画に合わせてってのはよくありますが、DVDリリースに合わせての文庫出版てのは非常に珍しいですね。出版社側でも映画の公開を待ってたんですかねぇ。てか未公開作品なのに公式サイトもやたらと立派で、何か事情があって劇場公開できなかったような感じもありますねぇ。

第2次大戦中のイングランド、主人公チャールズ・ライダーは新しい宿営地となった大きな館で、かつて、そこで過ごした青春時代を回想する。

オックスフォード大の学生だったチャールズは、そこで、いつもテディベアを持ち歩き、放蕩の限りを尽くしている侯爵の次男セバスチアン・フライトと知り合い、あまり評判の良くない彼の仲間達と共に退廃的な日々を過ごすようになる。

やがて、セバスチアンの家族が暮らすブライズヘッドという豪邸に招かれたチャールズは、セバスチアンの家族とも交流を持つようになっていく。フライト一家は敬虔なカトリック信者である母親によりフライト家の4人の子供達はそれぞれ宗教に対し異なる考えを持ち行動していた。彼らとの交流の中で宗教心を持たなかったチャールズは信仰について考え成長していくのだが、大邸宅ブライズヘッドはもろくも崩壊していく・・・。

作者との価値観の違いからくるもどかしさはあるんですが、たっぷりと作品世界に浸ることができて大満足でした!

上・下巻になっていて、上巻はセバスチアンとの日々を描く第1部、下巻には彼の家族達との交流や、大邸宅ブライズヘッドのはかない行く末を描いていました。20世紀も中盤に入り、古きよき時代が過ぎ去っていくのが感じられて、ちょっとしんみりした気分になります。

英国の邸宅モノ小説(勝手に命名)は、ブロンテ姉妹やオースティンなどの古典から、「日の名残り」(イシグロ)や「贖罪」(マキューアン)などの現代作家の作品まで名作が多いのですが、これまた読み応えのある作品で、英国好きとしては非常に楽しめる作品でした。

そもそもの、テディベアを持ち歩くアル中デカダンオクッスフォード大生っていうセバスチアンの設定が絶妙ですよね~。

ウォー自身が英国人でありながらカトリック教徒だったということで、この作品もラストに向けて、主人公が宗教に近づいていくんですが、このあたりの展開は、特に宗教心を持たない自分にはとっつきにくい部分もあって、なかなか入り込みづらい印象。父の死の場面なんかは圧巻のクライマックスなんですが、それでも、自分の価値観との違いは否めません。

英国におけるカトリックの立場というのもそこまで詳しいわけではないので、この作品の本質もちょっと分かりづらいですね。もうちょっと勉強してから読むと、もっと理解が深まるんだろうなというのをヒシヒシと感じました。

あと、セバスチアンが憎めないキャラだったのに、だんだん話の主流から離れてしまったのがちょいと残念。

ところで、上述の映画版もあるんですが、80年代に作られたというTVドラマ版は英国ドラマ史に残る傑作と称されているらしいので、是非ともそちらも観てみたいものです。いや、ブライズヘッドのお屋敷の映像を堪能したいだけなんですが・・・

どうでも良いことですが、岩波文庫さん、上巻と下巻のカバー写真に統一感が無いのがちょっと残念。

* * *

関連過去レビュー

「贖罪」 イアン・マキューアン

時代設定がちょっと近い作品。第1部の完成度はため息が出てしまうほどに素晴らしいです。

 

映画「ヒストリーボーイズ」

「ブライズヘッド」の主人公チャールズは中流階級の出ですが、1980年代の英国を舞台に、中流階級の高校生達がオックスフォード大を目指す様子を描いた傑作戯曲を映画化した作品。強引な関連付けですね・・・。

|

« 映画「幸せの1ページ」 | トップページ | 映画「ラ・ボエーム」 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

ご紹介有り難うございます。
イヴリンウォーを読もうと思って検索して行き当たりました。
イシグロの日の名残、映画も本も大好きです。エマトンプソンにはイチコロ。
英国人というのは肌に合わないのですが、トンでもないヤロー、というのが少ない。これはイイコトかどうかわからないが。

投稿: 古井戸 | 2009年10月 7日 (水) 18時24分

>古井戸さん

コメントいただきましてどうもありがとうございます。

日の名残りは
珍しく映画化が大成功した作品ですよね。
自分も小説も映画も大好きです。

この「回想のブライズヘッド」も
読み応えがあってなかなか面白い作品でした。
イブリンウォーは「大転落」も結構面白かったですよ。


投稿: ANDRE | 2009年10月 9日 (金) 01時32分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「回想のブライズヘッド」 イーヴリン・ウォー:

» 情愛と友情 [いやいやえん]
原作は文芸小説。読んだことはありませんが、イギリス社交界を舞台に、滅びゆくカトリック貴族と同性愛や略奪愛なんかを叙情的に描いたイギリス文芸らしいです 貧しい生い立ちの青年が、貴族の息子の「ブライズヘッド屋敷」へと招かれ、彼との同性愛的で濃密な友情を深めていくが…。あやうい貴族の青年セバスチャンを、「パフューム ある人殺しの物語」の主演を務めたベン・ウィショーさんが演じています。 原作のあらすじをざっと読んだのですが、同性愛や友情というよりカトリック貴族の悲哀を中心としたような話なんですね。最... [続きを読む]

受信: 2009年3月22日 (日) 14時27分

« 映画「幸せの1ページ」 | トップページ | 映画「ラ・ボエーム」 »