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2009年4月15日 (水)

映画「グラン・トリノ」

グラン・トリノ (クリント・イーストウッド 監督・主演) [DVD]

gran torino

アメリカ

2008

09年4月25日公開予定 

4月10日試写会鑑賞

イーストウッド監督作品は「チェンジリング」が非常に素晴らしかったので、立て続けに公開される新作も非常に楽しみにしていたところ、試写会に当選したので、一足早く観にいってきました。

この作品、驚くほどの傑作です!!

主人公ウォルト(クリント・イーストウッド)はかつて朝鮮戦争に従軍し、その後はフォード社に勤め、自宅ガレージにある72年製の愛車グラン・トリノをこよなく愛していた。頑固で昔気質、偏屈者の彼は、妻を亡くし、子供や孫達からは疎まれ、愛犬とともに余生を過ごしていた。

昔から住んでいる地域は気づけば、アジア系移民のフン族たちが集うようになり、人種差別主義者である彼は隣家に暮らすフン族の家族のことも気に食わない。

そんなとき、隣家の長男タオ少年がごろつきの従兄らにそそのかされ、ウォルトの愛車グラン・トリノを盗む為にガレージに侵入したところを見つかってしまう。やがて、あるできごとを機にタオの姉スーと知り合ったウォルトは、彼女のまっすぐな人柄を気に入り、会話を交わすようになる。スーは気が弱く地域になじめていない弟のことを気にかけており、ウォルトはグラン・トリノの件の償いとして、タオに自分の家の仕事を手伝わせるようになるのだが・・・。

「チェンジリング」は今年見た作品の中で1位かなぁと思っていたのですが、イーストウッド監督自信が、それを上回る傑作を作ってくれたことに、もうただただ脱帽です。

いつものイーストウッド節のきいた重い映画なんだろうと思って観始めたのですが、鑑賞開始からまもなく、試写会の会場は幾度となく笑いに包まれ、今回は何かが違うと認識。なんと、全編を通して温かな人情味溢れるユーモアに満ち溢れた作品ではないですか!

割とステレオタイプな登場人物が多くて、ウォルトの頑固っぷりも、子供や孫達のウォルトへの態度も、不良たちの悪っぷりも、おせっかいなアジア人たちも、癒し担当の動物も、どれもこれも、典型的な描かれ方で、それを上手く笑いに繋げているあたりが非常に上手いです。

しかし、それでいて、様々な深いテーマを盛り込み、容赦なく悲劇を描き、ラストはいつものイーストウッド節炸裂な賛否両論分かれそうな展開に。

鑑賞後は様々なことを考えながら、いつまでも映画の余韻が残り、自分の価値観などを見つめることになるのですが、それとともに、全編に溢れていた微笑ましいユーモアの数々も同時に思い返され、1つの映画としての完成度はすさまじいものだったと思います。

以下ネタバレっぽくなってしまったので、反転させてどうぞ。

イーストウッド氏はこの作品で俳優を引退すると宣言しているようですが、この作品が描くできごとは、彼がかつての西部劇スターだったことを考えると非常に興味深いです。

典型的な西部劇といえば、悪役にインディアン(異民族)が登場し、仲間や身内の復讐のためにバンバンと敵討ちをするといったイメージがあります。しかし、この映画では、異民族に支配された地域で、彼らに歩み寄り、かつてのような形の復讐は未来には残したくないと訴えかけてくるようなラストで、かつてのスターが、新たな時代にかつての自分の居場所を失い、新時代をつげるメッセージとともに静かに立ち去っていくような印象を受け、胸がグググッと熱くなってしまいました。

ウォルトの決断は、相手に重い十字架を生涯背負わせるというもので、なんとも残酷で、悪質なものだったのですが、彼自身、そんな酷い行為をできるのは多くの罪を背負って生きてきた自分しかいないだろうと強く感じたのではないでしょうか。

鑑賞する我々が彼の決断をどう判断するかは賛否が分かれるに違いないですが、この作品の中で、ウォルトがこの結論に達するであろう伏線は確実に描かれていたわけで、個人の好き嫌いは別として、この映画としては、このラストは必然だったように思います。

タイトルにもなっているグラン・トリノ、ウォルトはこの車に乗らないんですよね。アメリカの古き良き伝統や、輝きの象徴のような車ですが、ウォルトは自分には、それに乗る資格がないと思いながらも、必死にそれを守り、しがみつこうとしていたのではないかと思います。

タオがそれを盗みに入り失敗するのも、移民たちがそれを得ようとする姿と被り、映画の最後、タオがグラン・トリノを運転する姿に、民族の壁を越えて、かつての伝統や輝きを引き継ぐ若者達によってアメリカの新時代が築かれていくことが予見されるシーンだったと思います。2009年、初の若き黒人大統領が誕生したアメリカという国を見事に描いた作品だったのではないでしょうか。

ネタバレ終わり

ところで、この作品、アカデミー賞で全くノミネートさえされてませんでしたが、何故!?期間的に対象外だったってことはないと思うんですが。謎すぎ。

てか、「スラムドック~」(早く見たい!!!)はこれよりも完成度高いとなると、今年の映画界は歴史に残る名作揃いということになるのではないかと思うんですが。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
早く、こちらにお邪魔したくて公開日を待っていました。
この監督に外れはない、とは思っていたけれど、
またまた、素晴らしい作品を作ってくれましたよね。
シンプルでわかりやすい設定の上に、予想外に笑いのシーンもあって、
最後にはいくつものメッセージが込められていて、
カッコいい男が、カッコよくスクリーンから消えるための最高の花道のようにも思えました。

時代遅れの頑固爺ふうに描かれているけれど、
孫娘の服装や行儀の悪さを苦々しく思ったりするのは、
当然のことだと思ったんだけれど、
そう思うのは、わたしも古い人間だからなんでしょうね。
語り始めたら、感想がなかなか尽きない作品です。

投稿: 悠雅 | 2009年4月25日 (土) 22時33分

>悠雅さん

コメントありがとうございます。

これまでのイーストウッド作品と比べて、
非常にユーモアにあふれていて、
しかし、深いメッセージをしっかりと盛り込んでいて、
監督しても俳優としても
なんて才能にあふれた人なのだろうかと
今更ながらに見せつけられたように思います。

孫娘の服装や態度は
自分もどうかと思いましたね。
あと子供夫婦のプレゼントとか(笑)

投稿: ANDRE | 2009年4月26日 (日) 22時18分

流石埜魚水です、初めまして。「グラン・トリノ」を見まして、ブログに書きました。

「グラン・トリノ」は、特異な映画ではないでしょうか…。一つは、インディアンでも黒人でもなく、アメリカのマイノリティーである東南アジア移民家族と、退役軍人が主人公という意味で。一つは、暴力には暴力で、拳銃には拳銃で、力には力で、自分の身に降りかかった火の粉は自分で消す、不正には断固として正義を貫くというのが、クリント・イーストウッドの描く西部劇の戦いのストーリ、刑事物の正義のアクション、アメリカ流のデモクラシーの正当防衛であった筈ですが…。今回は意外や意外、映画好きの私にとっても驚天動地の結末でした。自分の命を賭けて、自分の命を捨てて、銃社会のアメリカでは珍しく、銃を使わない非暴力を貫くヒロイズム、白人が移民の家族を守る…。この意味で、非常に特異な映画ではないでしょうか。アメリカが変った…、利己主義のアメリカが、利他主義のアメリカに?、相互扶助のアメリカになった?…。もうブッシュの「アメリカ」ではないという驚きでした。さらにもう一点。顔の皺が、老俳優としての「演技力」の深みを演出しています。恐らく、赤銅色の男の顔の皺が、表情をより熟成させ個性的にしています。女優の皺と違って、老いたいぶし銀の味わいを映す俳優は、クリント・イーストウッドと、もうひとりショーン・コネリー、まあチャールズ・ブロンソンも入れないと失礼だな…。若い頃の演技とは違った、熟年の「風味」がなんともいえません。俳優は死ぬまで俳優だ…。

事後承諾になりますが、私のブログ★映画のMIKATA★映画をMITAKAでリンクさせていただきました。
映画の話題を結構真面目に理屈ぽく、長々と書いてます。

映画好きな人の「好いな…」というブログ、映画愛好者のまとまっているブログを、私の感覚で選択しています。

一度ブログを吟味していただき、「ケシカラン、早速消せ…」とお怒りでしたら下記にメールでご連絡ください。早速に
削除いたします…。そのときは申し訳ありません。
時々、お互いが刺激になるような情報交換いたしましょう…。是非とも読者になってコメントください。コメントいただいたならば、必ず返事を書きます。

投稿: 流石埜魚水 | 2009年5月 8日 (金) 19時03分

こんにちは~。お久しぶりです。
いい映画でしたよね!!!
最後にイーストウッドのぼそぼそ歌うテーマ曲が流れるあたり、涙ボロボロでした。
私もオバマ大統領の登場と共に、アメリカの変化を感じました。

「スラム・・・」をご覧になっていないのにこんなこと言っちゃいけないかも?ですが・・・本作がアカデミー賞を取れなかった理由は何なんだろうか?と考え込んでしまいます。

投稿: ryoko | 2009年5月 9日 (土) 18時52分

> 流石埜魚水さん

コメントどうもありがとうございます!

リンクどうもありがとうございます、
さっそく訪問させていただきたいと思います。

イーストウッド氏のいぶし銀な老け方が
おっしゃられる通りに非常に味わい深く、
映画の内容もまた見事で、
永く記憶される作品になるのではないかと思ってます。

* * *

>ryokoさん

どうもお久しぶりです!
コメントどうもありがとうございます。

本当に稀に見る傑作だったと思います。
主題歌もエンドロールの風景も最後まで
本当に見事でした!!

俳優イーストウッドはこれで見納めなのかと思うと
非常に残念なのですが、
監督としてこれから先、どのような作品を
残してくれるのかがますます楽しみになりました。

アカデミー賞での無視っぷりが謎で仕方ないです。

「スラムドッグ~」は、
ダニー・ボイル監督が結構好きなので、
劇場で観ようと決めているのですが、
風邪をひいてしまったりということもあって
なかなか上手い具合に時間がとれず・・・。

「グラン・トリノ」をさしおいての作品賞なので、
それはそれは素晴らしい作品なのだろうと
期待しているところです。
(「グラントリノ」のせいで
 自分の中で無駄にハードルが上がってます)

投稿: ANDRE | 2009年5月10日 (日) 01時20分

何故アカデミー賞をかすりもしなかったのか、
私も不思議でした。
私にとっては今のところ、今年のNo.1です。

ただ、作品の中でいくつか疑問点も
感じました。
私の日記に書きましたので
よかったら、ご意見を聞かせてください。

でも、それを補ってもあまりある、素晴らしい作品でした!

投稿: zooey | 2009年5月10日 (日) 17時23分

>zooeyさん

コメントどうもありがとうございました!

今年度のアカデミー賞の
対象期間外の作品だったかと思ってしまうほど
謎につつまれた扱いの悪さでしたね・・・。
今のところ自分にとってもダントツでナンバー1作品です。

投稿: ANDRE | 2009年5月11日 (月) 01時27分

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『 グラン・トリノ 』 (2008) 監  督 :クリント・イーストウッドキャスト :クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー、 コリー・ハードリクト、ブライア...... [続きを読む]

受信: 2011年3月 7日 (月) 01時43分

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