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2009年4月17日 (金)

「man in the dark」 Paul Auster

Man in the Dark

man in the dark

Paul Auster

 2008

(未邦訳)

国内ではようやく2002年の傑作『the book of illusions』が『幻影の書』として邦訳が刊行されましたが、こちらは昨年刊行されたポール・オースターの最新作。書店の洋書コーナーにフラフラっと立ち寄ったらペーパーバック版が出ていたので購入しました。オースターだけはあまりに好きな作家のため、翻訳の刊行を待ち切れず原書派なのです。

主人公は年老いた文学評論家August Brill。彼は自動車事故に遭い、現在、娘の家で孫娘と3人で療養をしている。Augustの妻はすでに亡くなっており、孫娘は恋人が無残な形で殺され、家族たちは孤独で眠れぬ夜を過ごしていた。そんな夜、Augustは頭の中で1つの物語を妄想していた。

その物語では、ある日、突然主人公のOweb Brickが、見知らぬ土地に自分がいることに気づき、そこが、「9・11テロの起こらなかったアメリカ」であることを知る。その世界では、2000年の大統領選挙の結果を受けてブッシュ政権に異議を唱えたものたちが合衆国から独立をせ宣言し、アメリカ国内が内乱状態にあり激しい戦いが続いている。そんな中、Owenはある男を暗殺するよう指令を出されるのだが・・・。

眠れぬ夜の暗闇の中で、同じく人生の暗闇でさまよう家族たちを抱えた一人の老人が、物語を紡ぎ、そして、家族たちと会話を重ねていく物語の中に現在のアメリカに対する鋭いメッセージをこめた小説。

とても読み応えのある1冊。

ここのところオースターはすっかりお気に入りになってしまったのか、またまたまた「作中作」です。しかも、近年の他の作品同様に、「作中作」のレベルが高すぎて、普通に面白すぎで、単独の小説として十分に刊行できる内容。

今回のオースターはわりと真摯に現実と向き合っている印象で、メインのストーリーは寓話性もほとんどなく、場面もずっと家の中で、主人公の思考ととその家族の対話が中心になって展開するのですが、設定が設定なだけに、割と重めの内容です(読みやすい語りで、実際はそんなに重さは感じないのですが)。

あと、『リヴァイアサン』以上に社会的な描写、メッセージがとても強く出た作品で、寓話的な作中作を含め、現実のアメリカ社会を強く風刺した作品になっていました。

メインのストーリーのなかで、小さなエピソードをあれこれと主人公が回想していくんですが、エピソードの積み重ね方が、『孤独の発明』を思わせる部分があって、エンタメ的な面白さを強く含む作中作をその中に埋め込んでいくという構成に作家としてのオースターが円熟してきていることを強く感じました。

作中作では、強いメッセージの感じられる状況設定を与え、そこで展開される不条理な物語がそのまま、現実世界の不条理さを映し出すように感じられました。主人公たち家族をめぐる物語もまた不条理な現実に満ち溢れていて(オースターは自動車事故ネタも多いですよね・・・)、そんな不条理な世界に生きるわれわれへのメッセージを感じられる作品でもありました。

作中作、もっと読みたかったなと思ったんですが、ラスト近くは、メインのストーリーのほうも抜群に面白みを増して、割と一気読みでした。

そうそう、小津の「東京物語」がかなり大きく取り上げられる作品なので、読む前に映画を観ておくと面白さがぐぐぐっとアップすると思います。

英語もそこまで難しいわけではないので、原書も割とオススメなのですが、割と、「今」のアメリカを描いている作品なので、多少順番が前後してもよいから、早くに邦訳を出して、時代性が感じられるうちに多くの人に読んでもらいたいなと思う1冊でした。

* * *

参考過去レビュー

オースター作品を。

「the book of illusions」 (邦題:幻影の書)

「oracle night」

「travels in scriptorium」

「red notebook: true stories」 (邦題:トゥルー・ストーリーズ)

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コメント

こんばんは、ふくろう男です。

さすが原書派でいらっしゃいますね~
もう読了されたとは。

『孤独の発明』を思わせる、というのが興味のわくところです。
あと、小津がどうからんでくるのかも。

近々、青山ブックセンターにでも買いにいってみることにします。

投稿: ふくろう男 | 2009年4月22日 (水) 23時39分

>ふくろう男さん

コメントありがとうございます。

ちょうどオースターを読んでいたので、
ふくろう男さんのオースター記事にも
過剰反応してしまいました(笑)。

小さなエピソードや逸話を
いろいろと積み重ねて展開していたので
(ま、他の作品もそういうところはありますが)、
そんなところがちょっと「孤独~」っぽいなぁと
思ったところですかね~。

ただこの作品は社会色がちょっと強すぎるような
気がしないでもないです。

小津はネタバレしすぎ!な勢いで
登場するので、乞うご期待。
ま、文章では映画の空気までは
なかなか伝わらないので大丈夫なんですが。

投稿: ANDRE | 2009年4月24日 (金) 23時37分

つい先ほど、原著で読み終わりました。
とても感動し、どなたか感想を書いていないかなと探してこちらに出会いました。ありがとうございます。
もう一つのアメリカという大きな作中作も、オーガストの眠れぬ夜の随想という大きな壁の中に溶け込むような、後半につれて圧倒的な印象を与える作品だなと思いました。

投稿: mer. | 2014年8月 7日 (木) 11時46分

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