「その街の今は」 柴崎友香
その街の今は 柴崎友香 新潮文庫 2009.4. |
割と好きで、文庫化されたものは全部読んでいる柴崎友香作品。新しいものが文庫化したので読んでみました。
ちなみにこの作品は、芸術選奨文部科学大臣新人賞&織田作之助賞大賞を受賞し、芥川賞候補にもなっています。
主人公は勤めていた会社が倒産した後、カフェでバイトをしている28歳の女性。彼女は合コン帰りに友人と一緒に訪れたクラブで酔った勢いで盛り上がった年下の良太郎と会うようになるのだが・・・。大阪を舞台に古い写真を集め、そこに映された昔の街の風景に思いを馳せる主人公の日常を綴る物語。
柴崎作品はもともと好きですが、今回はその中でもかなり面白く読むことができました。主人公が性別こそ違えど、年齢が一緒だったので、親近感も一気にアップしましたし。
相変わらずの「何も起こらない」小説ですが、まったりと流れていく日常の中に確かに人々が生活していて、何も変わらないような繰り返しの中でゆっくりだけど何かが少しずつ変化している感じが良いですね~。
主人公が古い写真を集めているのですが、作中の風景描写がそのまま写真という小道具に上手い具合に結びついているのが感じられて、その辺りも好きでした。主人公達が生きている「その街の今」もまた、数十年と時を経ることで、過去に焼き付けられていくんだなぁと思いながら読んでいたのですが、写真に風景を焼き付けるように、主人公達の日常が小説と言う媒体で文字に焼き付けられていくような錯覚を覚えてゾクゾクしてしまいました。
柴崎作品を読むと、自分が関東在住なのがとても悔やまれます。関西方言による会話も脳内で上手く再生されないし、登場する実在の場所も行ったことがないので文章から想像するしかなく、生き生きとした大阪の人々が描かれているのが感じられるだけに、自分が読んで感じている世界が非常に中途半端なんだろうなというのが強く感じられてしまうのが残念。
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コメント
私が本作(「その街の今は」)に惹かれる理由。
その一。本作の舞台(心斎橋~長堀橋~谷町六丁目駅の沿線界隈)となった街には、私自身勤務経験があり、従って土地勘もあり、郷愁を感じるから(堺筋本町=いわゆる船場の繊維卸問屋街、の支店に六年間務めていました)。
その二。本作の主人公、歌ちゃんと同様、私自身も古写真鑑賞の趣味を有しているから。例えば、荒木康代『大阪船場おかみの才覚』掲載の「大正年間の堺筋通」や「昭和初期の阪急伊丹駅」等の古写真。その街の過去・現在・未来に思いを巡らす楽しさ。歌ちゃんなら、分かってくれるだろうな。
その三。登場人物たちの人物造形と会話のリアリティ。優れたシナリオの台詞のように、本作の会話は、大阪の女子たちの生態と本音を活写しているから。
何より主人公の設定からしてユニーク。東京でなく、大阪。正社員でなく、カフェのバイト。勤務先の倒産経験があり、妻子有る男性と不倫体験あり。合コンでは連戦連敗・・・等々、いわゆる「負け組」女子の物語であること自体が新鮮でした。
投稿: 船場ファン | 2012年8月26日 (日) 23時01分
>船場ファンさま
ブログが放置状態にあったため、レスができずに申し訳ありませんでした。
柴崎作品はその舞台を知っていると面白さが数倍上がるんだろうなと思っているので、理由その1は純粋に羨ましいです。
舞台も、趣味も、人物たちも、それを理解できる人たちの期待を裏切らないだけのリアリティを保っている作品であるということが分かり、非常に興味深いコメントです。どうもありがとうございます!!
投稿: ANDRE | 2013年1月 2日 (水) 01時00分