「空ばかり見ていた」 吉田篤弘
空ばかり見ていた 吉田篤弘 文春文庫 2009.1. |
1月に吉田作品が2作文庫化されたうちの1冊。1冊はすぐに読んだのですが、まとめて読んでしまうのはもったいなくてしばらく積読になっていました。
そういえば、このところ僕のイチオシだった「つむじ風食堂」が、なにやら脚光を浴びているらしく、どの書店でも平積みになっています。好きな作品なので嬉しいのですが、何故今頃になって!?という気も。
かつてパントマイムの修行をしたという変わった経歴を持つ床屋のホクト。彼はあるときたくさんの人の髪を切りたいと鋏を持って旅に出る。流浪の床屋をモチーフに描かれる12話の連作短編集。
この作品の面白いのは、ホクトが主人公と言うわけでもないし、世界観の設定が同じわけでもなく、ホクト氏はときにファンタジーの世界に現れたり、作中に登場する物語の登場人物だったりと、その登場の仕方が作品ごとに異なっているところ。
次はどのような形で彼が現れるのかワクワクしながら読みすすめちゃいました。
吉田篤弘氏の書く文章はあいかわらずとても温かくて、構築する世界観も素晴らしく、読んでいてあまりの心地の良さに、いつまでも作品世界に浸っていたいと思わせてくれますね~。
12話の中で特に気に入った数点をメモ。
「七つの鋏」
第1話目。小学生の主人公と放浪の旅に出る前の床屋のホクトさんとの交流を描く。
これだけ読むと、この作品集はこのあと、ホクトさんの旅を描いていくのかなと思わせるんですが、ストレートにそのようには展開しないところが憎いです。
ちょっと成長した主人公がホクトと邂逅する場面がとてもよかったです。
「アルフレッド」
床屋ならではの特技なのか、相手の素性をあてることのできるホクトと、アルフレッドという名の男の交流を描く。
この作品、オチがとても良かったです。
「ローストチキン・ダイアリー」
クリスマスに家にいられない妻が自分と子供のために残していったのはアドヴェント・カレンダーのようにクリスマスまでの毎日、1日に1つずつ開けて楽しむティーバッグ。娘のリンとそれを楽しみながら、翻訳の仕事を進める主人公の日常を描く。
一番好きだったのはこの作品ですね~。日常の描き方が良い。ホクトの登場の仕方が一番あっさりしてましたが。
「ワニが泣く夜」
月に1度、娼婦達の髪のメンテナンスのために娼館にやってくるホクト。片耳を失っている娼館のアルジが、付け耳から聞こえてくるという声について語り始めるのだが・・・。
「ソーリー」とか印象に残るシーンの多い作品。でもラストのほうがあまり好きではない。
「永き水曜の休息」
司書として働くデコと朝子2号の物語。
自分はこういうほんわかとした日常モノが好きみたいです。
「草原の向こうの神様」
束髪士のホクトはある日、自分の驢馬にささっていた矢が神より選ばれた証だということを知るのだが・・・。
ここにきて一気にファンタジー。オチはよめたけれど、吉田作品とファタンジーというのはやはり相性が良いようです。
本音を言えば、吉田作品の中では好き度はやや下がる作品ではあるものの、読んで良かったと思える1冊でした。この作品集なんかは、ちょっとアーティスティックにアニメ化してみたら面白いんじゃないかな、と思わせましたね。映像的な印象の強い作品だったように思います。
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コメント
またお邪魔します。
装丁だけで、この方の作品だな、とわかる文庫ですねぇ。
いずれ読みたいと思いながら、いつものようにあちこちウロウロ…
でも、きっと読みたいと思っています。
『つむじ風食堂』、篠原哲雄監督、八嶋智人主演で映画化され、
秋に公開だそうなのです。
何か、最近そんな話ばっかりしてますね。
映画がどんな感じに作られているのか、やはり気になります。
投稿: 悠雅 | 2009年5月 4日 (月) 08時41分
>悠雅さん
コメントどうもありがとうございます!
単行本は北斗七星のデザインだったようですが、
文庫でもオリジナルでこれまた良い装丁になっているのが
嬉しいですよね~。
『つむじ風食堂』が映画化ですか!
知らなかったので、かなりビックリです。
ついにそこまでメジャーになってしまいましたかぁ。
近所の子がアイドルになってしまったような感じで
(もちろんそんな経験はありませんが)
ちょっと寂しいですが、気になる話です。
吉田作品独特の空気感が
どのように表現されるのか楽しみですが、
不安の方が大きいですね・・・。
個人的には『クラウド・コレクター』とかを
アニメーションで映画化して欲しいなぁと思います。
(もちろん、クラフトエヴィング商會の監修で)
投稿: ANDRE | 2009年5月 4日 (月) 23時21分