「大洪水」 ル・クレジオ
大洪水 J.M.G. ル・クレジオ 河出文庫 2009.2. |
昨年、ノーベル文学賞を受賞したル・クレジオの初期長編作品が文庫化したものを読んでみました。ル・クレジオ作品を読むのは、同じく文庫になっている短編集『海を見たことがなかった少年』(集英社文庫)に次いで2冊目です。
主人公フランソワ・ベッソンが様々なものに遭遇し、人々と出会い、あれこれと考える13日間を描く作品。
ストーリーを書きづらい作品なので短めで。
なんと、これ作者が26歳のときの作品です。自分より年下の若者が書いたのかと思うと、ちょっとビックリ。
冒頭のプロローグがいきなりものすごく分かりづらくて、そこで挫折しそうになるんですが、その後に続く本編は、一気に読みやすくなったので一安心。
しかし、基本的になにやら理解が難しい作品で、文章自体は思ったよりも平易で読みやすいのですが、つかみどころのない印象。こういうのは自分の読解力の問題も大きいんだろうけど。
割と読み応えのある1冊だったのですが、なんだかどう語ればいいのかもよく分からず。読みやすくなったと思った本編もいきなり長々とテープを聞かされるし、中盤ちょっと面白いんだけど、最後はどんどん難解な方向に戻っていって、再び難しいエピローグで閉じてしまうし。
自分にとっては、ただただ、五感の描写がすさまじい作品で、視覚のみならず、聴覚、触覚など全てを刺激し、読みながら、自分の五感にその情景がガンガンと響いてきて、溢れんばかりのめくるめく描写の数々にクラクラきてしまいました。
タイトルの『大洪水』の意図するところも分かりづらかったんですが、内容の分かりやすさは置いておいても、言葉の洪水に溺れて作品世界にどっぷりと浸かれる1冊ではないかと。
各章の頭にあらすじ的な小見出しが並んでいることから分かるように、ストーリー展開よりも、描写のほうが主役の作品なんだと思います。
以前短編を読んだときも思ったのですが、この人の光の描写が結構好きです。
ル・クレジオは面白そうな作品がいくつかあるので、今後も、文庫化するなどしたら折を見て読んでいこうかなと思います。
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