「修学旅行は終わらない」 村崎友
修学旅行は終わらない 村崎 友 メディアファクトリー文庫 2008.8. |
たまたま見かけて、ちょっと面白そうだなと思い、何の前知識もなく読んだ1冊。『ダ・ヴィンチ』での連載をまとめた作品とのこと。
舞台はとある高校の修学旅行最終日の夜。先生達の見回り表のコピーが出回り、見回りの隙をついて、2階に宿泊する一馬、ごっちゃん、甚太の3人は女子部屋のある3階へ。甚太の彼女である葵のいる部屋になんとか潜入することに成功した3人だったが、そこに予定外の先生の巡回が!
一話ごとに語り手を変えながら、主人公達の修学旅行最後の夜の大騒動を描いていく。
厳しい指導で恐れられるカジイ先生、酒盛りをはじめて正座させらてしまうグループや、2階の部屋でマイペースに過ごす男子達といった個性豊かな脇役たちが彩る中、謎の幽霊騒動までおとずれて、彼らの修学旅行は一体どうなってしまうのか!?
サクッと読めて楽しめるなかなか面白かったです。
文学的な深さとかそういうものは薄いのかもしれないけれど、高校時代の修学旅行のワクワク感を思い出させてくれて、とても爽やかな気持になれる、まさに拾い物の1冊でした。
特にラストの爽やかさが非常に印象的で、読後には、自分の修学旅行の思い出をあれこれと思い出したりして、「修学旅行」をキーワードに気持の良い余韻がしばらくの間続いたのも嬉しかったですね~。
修学旅行って高校時代の超ビッグイベントの1つなのに、それを題材にした作品って実はそんなに多くないですよね。部活動なんかを描く青春小説でも、なぜかスルーされてしまうことが多いように思うので、この作品はなかなか貴重な存在ではないかと。
語り手を変えて、時間軸も行ったり来たりしながら、徐々に一夜の騒動の実態と、登場人物たちの人間模様が明かされていく構成は、作者が横溝正史ミステリ大賞の受賞者ということもあって、非常にしっかりとしていて、程好いテンポで、小気味良く読ませてくれました。
あと、ちょっと嬉しかったのは、文化部の子も運動部の子も満遍なく活躍する内容だったとこ。
エピソードとして結構好きだったのは、外に閉じ込められちゃう2人。割と大変な目にあってるのに、バカな会話をして、変なテンションでその場を切り抜けようとするところとか、かなり好きです。ごっちゃんは恋の行方も爽やかだったしね。
登場人物たちが皆愛着の持てるキャラなんですが、語り手として好きだったのは若い女性教師が語り手になる第4話。多分、彼女は僕と同世代で、自分も先生をしている友人から修学旅行の引率の話を聞いたこともあるので、なんだか親近感を持ってみたり。
彼女自身の修学旅行のときに宮崎映画の新作が公開されるとあるのは、時期的にみて恐らく「もののけ姫」。これは僕が高2のときの映画なので、まさにドンピシャリなのです。
ところで、「宮崎駿の新作」という表現が出てきましたが、我々世代は多分「ジブリの新作」と呼ぶのが一般的だと思うんですよねぇ。作者が73年生まれということなので、多少仕方ないとは思うのですが、高校生達の会話の部分も、今どき高校生の会話にしてはちょっと不自然かなと思う部分もちらほらあって、やや気になったのも事実。
とまぁ、気になる部分がありつつも、自分の高校の修学旅行の思い出も、たかだか数日のできごとのはずなのに、10年以上経っても良く覚えている面白エピソードが目白押しで、ブログ記事にでもしたら相当の長さになるものが書けそうな位の出来事の数々があって、そのときのワクワクを久々に思い出させてくれてことに感謝☆な1冊でした。
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