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2009年6月15日 (月)

「沼地のある森を抜けて」 梨木香歩

沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

沼地のある森を抜けて

梨木香歩

新潮文庫 2008.11.
(original 2005)

文庫刊行時に購入したものの、長らく積読になっていた1冊をようやく読みました。梨木作品は好きなものと苦手なものの差が大きいので、これほどの長編となると、果たしてどちらに転がるのかということが気になり、なかなか手が出せずにいました。

主人公の久美は叔母の死後、家族に代々伝わると言うぬかどこを預かることになる。あるとき、ぬか床から卵が現れ、数日後、その卵の中から一人の少年が現れる。

やがて、久美はぬかどこに隠された秘密を探るため、友人の酵母研究者の風野さんと共に、一族の故郷の島を訪ねるのだが・・・。

うん、これ、この時点での梨木作品の集大成的傑作ではないでしょうか。なかなかの大作長編でしたが、非常に読み応えのある内容でした。

ただ、本編の中に短い物語が挿入されているんですが、この意図がちょっと分かりづらかったです。

冒頭の数章を読んでいるうちは、主人公と幼馴染がぬか床から現れた不思議な人々との生活の中で次第に距離を縮めていく物語なのかなと思い、それはそれで結構楽しんでいたのですが、次第に物語りは深みを増し、ラストは遺伝子の存在意義にまで迫っていく内容には圧倒されっぱなし。

ま、ちょっと圧倒されすぎて、この物語の中核をなす最重要テーマだとは分かりつつも、最後のほうは、何もここまで話を広げなくても、と思ってしまったのも事実。

キャラとしてはフリオと光彦の話が前半でかなりお気に入りだったので、彼ら中心に展開する、ちょっと不思議な世界のゆる~いほのぼのとした小説だと思ってしまっただけにギャップが・・・。

この作品、伏線もうまく張られていて、風野さんというキャラクターが物語の終盤で深い意味を持って現れたときには、「おぉ、そうきましたかー」という驚きと喜びがありました。

ぬかどこという極めてこぶりで、「和」のテイストの強いものを使って、これほどまでのユニバーサルで壮大な人間の問題を描いた作者の力量にはビックリで、梨木氏が作家として、何か1つの大きな壁を越えたのではないかとさえ感じられる1冊でした。

ただ、個人的には『家守綺譚』&『村田エフェンディ滞土録』のほうが作品としては好きなんですが・・・。

あと、本当に細かいどうでもいいことなんですが、戸籍とかそういうのはどうなってるんですかね??

* * *

参考過去レビュー

過去に書いた梨木作品の感想を。

実はこれ以外にも、『西の魔女~』や『裏庭』、『からくりからくさ』なんかも読んでいるんですが、どうも肌に合わず、最後まで読みきることができずりリタイアしてます。それにも関わらず、以下2作品は猛烈に好きな作品だったりします。

『家守綺譚』

『村田エフェンディ滞土録』

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コメント

これは素晴らしかったですね。日本のSFがここまで来たかと思うと感慨深いです。いやこれは立派なSFです。しかも世界的なレベルの、ね。
でももう一回読むかといわれると読まないと思いますが。

途中に挿入される「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」は確かに今ひとつよくわからないですね。
私も作品としては「家守…」の方が好きです。「村田…」は未読です。

投稿: piaa | 2009年6月16日 (火) 21時19分

>piaaさん

梨木作品は好きなものと苦手なものの差が大きいので、
不安もあり長らく積読になっていたのですが、
こんなに良い作品ならば、もっと早く読んでいれば良かったです。

ぬかどこから出てくる人々とのほんわかした日常の話かと思いきや
見事なまでのSFでしたね。

「村田エフェンディ」は「家守」と世界観を共有する作品なので、
「家守」がお好きでしたらオススメです。

投稿: ANDRE | 2009年6月17日 (水) 21時56分

はじめまして。
私も「家守綺譚」が大好きで、読み終えてすぐに最初から読み返しました。
読んでいてすごく心地良いんですよね~(*^^*)
懐かしい綺麗な空気に包まれているような感じ。
「村田エフェンディ滞土録」には泣かされました。大好きです!

「沼地~」もすごいけど、現時点で梨木作品の私のベストは「家守綺譚」。次いで「村田エフェンディ~」です。
ご存知かもしれませんが、「沼地~」の執筆の合間に「家守綺譚」を書いてバランスをとっていらしたそうですよ。
「沼地~」には、梨木さんの得意な植物の描写があまり出てこないから(^^;

投稿: asagi | 2009年6月27日 (土) 11時47分

>asagiさん

はじめまして。
コメントどうもありがとうございます!

「沼地~」は客観的に見て素晴らしい作品なんですけど、
読者から長く愛されるのは、「家守」、「村田エフェンディ」
という感じですよね。

「沼地」と「家守」は平行して書かれたんですか。
これは知りませんでした。
作者の中でもこの2作品は互いにバランスを取り合うような
位置づけで書いていたんですねぇ。
なんだか納得です。
面白い情報をどうもありがとうございました。

本も映画もと、雑多なブログですが、
よろしければまたお訪ねください。

投稿: ANDRE | 2009年6月28日 (日) 00時22分

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