「モノレールねこ」 加納朋子
モノレールねこ 加納朋子 文春文庫 2009.6. |
加納作品が立て続けに文庫化してくれてちょっと嬉しい今日この頃。今回は連作ではなく、1つ1つが独立した8作品を収録した短編集という加納作品としてはちょっと珍しい1冊。
加納朋子といえば、勝手に「連作短編の魔術師」と呼んでいるのですが、普通の短編集でも、しっかりと読み応えのあるとても面白い1冊になっていて、ますます好きになってしまいましたね。
重松清のような人情話の中に、加納朋子の本領発揮といった感じのほどよい小さな謎が挿入されていて、彼女にしか書けないであろう内容になっているところが素晴らしかったです。
何かを失った人々を描いた作品ばかりなんですが、全体が暗くなりすぎていないのも良かったです。
以下、気になった作品に一言メモ。
・「モノレールねこ」
モノレールねこと名づけらた猫に手紙を預けタカキと文通を始めたサトルの物語
哀しくも爽やかな物語で、ラストがとてもすがすがしいですね。ちょっとした謎解きもお見事!
「モノレールねこ」という名のついた理由なんですが、僕の住んでいる街に走っているモノレールはぶら下がり式のため、自分に馴染みのあるモノレールのイメージはちょっと違うんですよねぇ。それでも、なかなかのネーミングセンスだとは思います。
・「マイ・フーリッシュ・アンクル」
突然家族を亡くし、無職の叔父と暮らすことになったカスミの物語
ダメダメな叔父がなんとも愛らしいキャラで憎めません。短い中に叔父と少女の成長、隠された家族の物語に家族の絆を感じさせ、感動と爽やかさが共存する読後感がとてもよかったです。
これが一番好きだったかなぁ。
・「セイムタイム・ネクストイヤー」
ホテルを舞台にした佳作。これも味わい深い。
・「ポトスの樹」
父親を憎み生きてきた青年が結婚し・・・
このラストは反則でしょ。ラストのまとめ方が良い話過ぎて泣けます。
・「バルタン最期の日」
ザリガニを主人公に人間の少年の家で飼われることになった彼の視点で描かれる
ザリガニ視点の小説という物珍しさだけでなく、ちょっと深い家族の物語をさりげなくからめ、押し付けがましくない展開だっただけに感動もひとしお。これは重松作品かと思ってしまうくらいに泣かされます。
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