「マルコヴァルドさんの四季」 イタロ・カルヴィーノ
マルコヴァルドさんの四季 イタロ・カルヴィーノ 岩波少年文庫 2009.6. |
長らく入手困難になっていて、カルヴィーノを好きになってからずっと読みたいと思っていた作品が、新訳になって再発売されました。新訳を担当されたのが、古典新訳文庫でロダーリやブッツァーティを担当した関口英子さんだというのもちょっと嬉しいですね。
岩波少年文庫、たまにチェックすると嬉しい仕事っぷりが憎いですねぇ。
主人公は大都市に妻と6人の子供たちと共に暮らすマルコヴァルドさん。彼は、SBAV社で肉体労働をし、決して裕福ではないものの、自然を愛し、常に好奇心旺盛に毎日を楽しんでいる。そんなマルコヴァルドさんの日常を、5回繰り返される春夏秋冬と名づけれた20章で描いていく連作短編集。
四季が全部で5回繰り返されるというちょっと面白い章立ての構成がいかにもカルヴィーノっぽい作品なんですが、あふれるユーモアと皮肉と風刺にあふれた内容が単なる児童向け作品以上の深い味わいを感じさせるあたり、流石、という感じです。
基本的にどの話も、
「マルコヴァルドさんが町で面白いものを発見」
↓
「なかば強引に自分の欲望を満たす」
↓
「周囲の人がまきこまれる」
↓
「大失敗などがあり、痛い思いをするなどの皮肉的なラスト」
という流れで展開されていて、その中に、都会生活や文明社会への皮肉をピリリと利かせるというのが基本のパターン。
どんなに貧しくても、どんなに辛い目にあっても、新しい物語が始まると、マルコヴァルドさんが常に好奇心旺盛で前向きに人生を楽しんでいる姿がとても印象的な作品でした。
で、文明批判みたいな部分が割と強い作品で、ここで描かれる大都会の姿は多少デフォルメされたものになっているのに、半世紀ほど前にイタリアで書かれたデフォルメ大都会が、21世紀を迎えた現在の日本と比べて、驚くほどに違和感のない都市の姿であるのが非常に興味深く、また、この作品のメッセージ性を際立たせていたように思います。
とりわけ、食品の異物混入のくだりなんか、「そんな時代のことでした」なんて、過去のことのように語られているのに、昨今のニュースを思い出さざるを得ない内容で、しかも、自分がもはやそんなニュースに慣れっこになってしまっていることにも気づかされ、この作品のユーモアや皮肉がもはや単なるフィクションではなくなっている怖さのようなものがありましたね。
お気に入りエピソードはたくさんありますが、「ハチ療法」、「お弁当箱」、「高速道路沿いの森」、「おいしい空気」、「牛とすごした夏休み」、「毒入りウサギ」、「まちがった停留所」(←間違えすぎ!)、「スーパーマーケットへ行ったマルコヴァルドさん」、「がんこなネコたちの住む庭」、「サンタクロースの子どもたち」あたりはとりわけ好きでしたね~。てか、とりわけ、と言ってる割に多いですが・・・。
オリジナルと思われるセルジョ・トーファノ氏によるイラストもほどよいポップさが感じられて、どうせなら全編カラーで見てみたかったですねぇ。
岩波少年文庫さん、今後も素敵なラインナップに期待してます!!
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