「終末のフール」 伊坂幸太郎
終末のフール 伊坂幸太郎 集英社文庫 2009.6. |
単行本が出たときからずーっと読みたかった作品(伊坂作品は全てそうなんですが)がついに文庫化。今回は連作短編なんですねぇ。
あるとき8年後に地球に小惑星が衝突することが発覚し、世界はパニックに陥る。犯罪が多発し、多くの人が命を落とし、混乱が続いていたが、地球滅亡まであと3年という頃になり、世間はようやく落ち着きを取り戻していた。
仙台北部の「ヒルズタウン」を舞台に、地球滅亡があと3年に迫る中、残された人生と向き合おうとする人々の姿を描く連作短編集。
各短編は「終末のフール」「太陽のシール」など、「○○(二文字熟語)の■ール」の形式でタイトルがつけられている。
伊坂氏では『死神の精度』なんかも連作短編でしたが、個人的には今回のほうが完成度は高いと思います。ま、死神~は千葉というキャラを生んだだけで偉大な作品なんですが。そういえば『チルドレン』も連作短編ですね。
この作品、これまでの伊坂作品と比べると、個性の強いキャラがいるわけでもないし、粋な台詞が多いわけでも、強烈なエンタメ性があるわけでも、他作品とのリンクがあるというわけでもありません。
しかし、読んでいて、紛れもなく伊坂作品であるということが感じられるし、他作品とのリンクがない代わりに、連作短編内でのリンクがとても充実していて、やや薄味ではあるけれど、1冊の中に伊坂作品のエッセンス(特にストーリーテラーとしての)がググっと詰まった作品という印象です。
全体に面白かったんですが、ちょっと思ったのはどの作品も、良い人が主人公でして、もうちょっと、自暴自棄になり犯罪に走る人物が主役になっている短編があってもよかったかなぁと思います。なんかどの短編もちょっと似たり寄ったりというか。
そうそう、タイトルのつけかた、たまに強引なのがあるのが微笑ましかったです。
以下、印象に残った話メモ。
・「太陽のシール」
非常に考えさせられるテーマを扱いながら、最後の余韻がとても心地よかったです。
「オセロは2人でしかできないんだ」に対して与えられたラストがとても良い。
・「籠城のビール」
TVの台詞とか、この短編集の中では伊坂節が特に炸裂している一編でしたね。
・「冬眠のガール」
この話、かなり好きです。三者三様の展開とかラストに主人公が一歩前に進むところとか。
・「鋼鉄のウール」
終末の過ごし方としては最も、カッコイイのがこの話だと思う。
・「演劇のオール」
一番好きなのはこれかなぁ。どこがって聞かれると難しいんですが。
この作品、読んでいて思い出したのが「箱舟はいっぱい」という藤子F氏の短編作品。地球滅亡を前に、シェルタに入れる権利をめぐって近所の人々とギクシャクする様子を描いた作品で、こちらもなかなか面白いです。『終末のフール』にもそんなエピソードがちらほらと顔を出してましたね~。
自分だったら残された3年間をどのように過ごすかなぁ、ということを読んでからあれこれと考えたんですけど、さも何事もなかったかのようにして、いつも通りの毎日を過ごして、大切な人々とのなんでもないような、だけれど、幸せな思い出を沢山作りたいなぁとか。なんて、奇麗事を言いながら、いざ、そうなったときは慌てふためくんだろうけど。
この作品で提示された終末観、僕はこんな外を出歩くこともできなくなるような世界ではなくて、もうちょっと人間を信じてみたいなぁとも思うんですけど、いかがでしょうか。
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コメント
こんばんは。ちょっとご無沙汰しておりました。
わたしはまた孫との時間を過ごして、開店休業状態でしたが、
ANDRさんもお忙しかったのですね。
この連作短編を、うんと初期に読んでしまい、
伊坂作品らしいかどうかもよくわからないままの、いい加減な感想なのですが、
うまく行けばTBが届いているかと思います。(届いてなかったらごめんなさい)
これって、小惑星の衝突のニュースが流れた直後ではなくて、
小康状態である時期が舞台なのが面白いですよね。
『籠城のビール』が一番強い印象が残っているけれど、
伊坂らしさが一番出てる作品でしたか。
それぞれのお話を、もう、うすらぼんやりとしか覚えておらず、
伊坂作品を大部分読んだ今、
文庫になっているなら改めて購入して(娘に借りて読んだので)
もう1度読み直したくなってきました。
そうしたらきっと、もっと違う感想を書くだろうと思います。
投稿: 悠雅 | 2009年7月27日 (月) 21時49分
すみません。
↑で書いたANDREさんのお名前、「E」が抜け落ちていました。
ごめんなさい。
投稿: 悠雅 | 2009年7月27日 (月) 21時50分
>悠雅さん
コメントどうもありがとうございます!
このところ、ちょっと慌しかった為、
記事のストックがかなりたまってしまいました。
どこかで一気にガガっと更新しちゃいたいと思います。
5年前にニュースが流れ、
衝突が3年後に迫っているという状況で
連作短編を作るというのはちょっと面白いですよね。
『籠城のビール』は
犯罪者を扱っていたり、台詞のやりとりや、
TVドラマの台詞を真似たしたりするあたりが、
お馴染みのエッセンスがギュッと詰まっている印象でした。
改めて再読された折には
是非またご感想をお聞かせください。
名前の件は、
全く気にしていませんので、
お気にされないようにしてください。
投稿: ANDRE | 2009年7月29日 (水) 01時02分