「キップをなくして」 池澤夏樹
キップをなくして 池澤夏樹 角川文庫 2009.6. |
なにやら不思議なタイトルの作品ですが、池澤氏の少年小説ということでちょっと楽しみにして読んでみました。
小学生イタルが趣味で集めている切手を買いに出かけたところ、駅の改札にて切符をなくしたことに気がつく。やがて彼は同じように切符をなくし改札から出られなくなってしまった子供達の集る東京駅の一角で「駅の子」として生活するようになるのだが・・・
東京駅を舞台にしてファンタジーを描くというのがとても面白い作品でした。
読み始めは、実在の場所を舞台にしているため、非現実的な展開にちょっと戸惑ったのですが、途中でこれはファンタジーなのだということに気づいてからは、すっと作品世界に入っていけました。
実は序盤を読んでいるときに東京駅から中央線に乗っていて、作品世界と自分の現実が急にリンクするというちょっと面白い経験も。舞台は20年ほど前ですが、どこかに駅の子がいるのではないかと思ってあたりを見回してしまったり。
駅の子っていうアイデアがツッコミどころは半端ないくらいに多々あれど、とても面白い。確かに子供にとって、駅でキップをなくすというシチュエーションは非常な恐怖を与えますよね。
解説によって作品の年代設定が絶妙であることがよく分かり、それも面白かったのですが、ちょうど自分が小学校の低学年くらいだった頃の時代を描いているので、「駅の子」たちと自分が同年代だというのも読んでいて当時を思い出す感じで面白かったです。
ただ、中盤以降、実はこの作品のテーマが「生死」であることが明らかになってくると、ちょっと説教臭い感じがしてしまったのも事実。まさかそっち方面に展開するとは思ってなかったのでちょっとビックリしてしまいました。しかし、その作者独特の死生観はなかなか興味深く、子供向け作品という見た目以上に骨太な読後感でした。
あと、北海道まで行ってしまう部分も個人的にはそこまでハマることができなかったかなぁ。
池澤ジュブナイルとしては、「ティオ」のほうがワクワク感も物語の面白さもあったかなぁと思いますが、読みやすさの中に、深いテーマが詰め込れている辺りはいつも通りで、なかなか楽しめる1冊でした。
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