「風に舞いあがるビニールシート」 森絵都
風に舞いあがるビニールシート 森絵都 文春文庫 2009.4. |
森作品は結構好きで読んでいますが、直木賞受賞作ということでとても読みたかった1冊。
ずーっと長編だと思っていたので(連続ドラマでやってたし)、読み始めて短編集だと気づいてちょっとビックリ。ドラマは表題作を膨らませた作品だったみたいです。
収録されているのは6作品。どれも、自分の大切なものが何かを模索し、それを守ろうとする人々を描いているというのが共通点でしょうか。直木賞受賞というのも納得のなかなかレベルの高い短編集だったと思います。
特に好きだったのは「守護神」と表題作かなぁ。
以下、それぞれについて簡単にコメントを。
・「器を探して」
有名パティシエのもとで働き、器を探すために、恋人との約束があったクリスマスイブに出張を命じられてしまった女性の物語。
これを読んでいるときはまだ長編だと思い込んでいたので、綺麗にまとまって終わってしまったことにビックリして慌てて確認したところ短編だったという・・・。
仕事か恋人か、クリスマスはどうするのか、なかなか面白い作品です。
・「犬の散歩」
捨てられた犬たちの世話をするために、水商売の仕事をはじめた主婦の物語。
あまり好きな話ではなかったけれど、焼肉が食べたくなりました(笑)
・「守護神」
夜間部の大学を舞台に、レポートの代筆で神と呼ばれている女性に代筆を頼もうとする男の物語。
自分が大学という環境で過ごしているせいか、レポートってのが身近な内容だったこともあって、とても面白かったです。主人公のちょっとずれた感じがすがすがしい。
・「鐘の音」
仏像修復師の辿った奇妙な人生とは?
一つ前の作品が割と軽かったのに対して、こちらは結構どっしりとした作品。
運命の妙を感じさせる内容で面白かったのですが、どちらかというと苦手なタイプ。
・「ジェネレーションX」
クレーム処理のための移動中に語られる野球部の同窓会のお話。
これは、映像化しにくいタイプのまさに小説ならではの面白さのある作品ではないでしょうか。学生時代の仲間達の思い出を語る様がありありと浮かんできて、人生の大切な宝物を感じさせる爽やかな作品でした。
・「風に舞いあがるビニールシート」
離婚した夫が赴任先で銃弾に倒れ死亡してしまった国連難民高等弁務官事務所で働く女性の物語。
表題作ということもあって非常に面白かったです。80ページほどの中で語られる物語の濃さが半端なく、短編にもかかわらず連続ドラマ化されたのも納得。
難民問題の難しさを見事に表現したタイトルがとにかく素晴らしいです。
「平和ボケ万歳!」というすがすがしいコメントからラストの決意に向かうまでの流れに強い衝撃を覚え、いつまでも心に残りました。風に飛ばされないよう、しっかりとこの平和を守り続けなければいけませんね。
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