「僕僕先生」 仁木英之
僕僕先生 仁木英之 新潮文庫 2009.3. |
ほんわかとした表紙と日本ファンタジーノベル大賞受賞の文字にひかれて読んでみました。
唐の時代、父親の財産があれば自分は働かずとも一生困らないことを悟ってしまった青年王弁は働くこともなく日々を悠々と過ごしていた。
あるとき、父親の命で近くにある黄土山に住むという仙人に供え物を持っていた彼はそこで、その仙人が可愛らしい少女の姿をしていることを知る。やがて、王弁は僕僕と名乗るこの仙人と共に旅に出ることになるのだが・・・。
仙人が可愛い少女という設定がなんとも上手くて、現代的な自分の行く道に迷い職に就かずに過ごしている青年の成長物語に、僕僕への淡い恋心が加わる当たりよくできているなぁと思います。そしてお約束のようにたまに老人の姿になるところも笑わせてくれて、なかなか面白いです。
表紙のイラストと同じタッチのイラストが本編内にも各章の頭に挿入されているのですが、作品全体を包み込む妙なほんわか加減は、文体などよりも、このイラストによって形成されてしまった脳内イメージによるところが大きいのではないかという気がしないでもありません。そういう意味でこのイラストの使い方はちょっとずるいと思いました。
物語が個々のエピソードは面白いのだけれど、1冊の本として全体を見たときに、もうちょっと大きな流れみたいなもので読み応えがあると良かったかなぁと思います。
あと、この作品、「語り手」の立ち位置が、現代の日本にいる我々に向けて語りかけているスタイルになっていて、たまに出てくる歴史解説みたいな部分で、それまでの物語世界から一気に現実に引き戻されたような気になってしまうのも個人的にはマイナスでした。
この後シリーズ化しているようですが、気が向いたら続編もまた読んで見ようかなと思います。
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