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2009年9月 4日 (金)

映画「BOY A」 

BOY A [DVD]

BOY A

イギリス

2007

2008年12月公開

DVD鑑賞

公開時から気になっていた作品。非常に素晴らしい作品でした。このような作品に出会えるイギリス映画はやっぱり大好きです。

舞台はマンチェスター。少年時代、全英を震撼させる事件を起こし、悪魔とまで呼ばれた青年が出所することになりジャックという名前で過去を隠し、新しい一歩を踏み出そうとしていた。

職場では気の合う仲間達とも出会い、ミシェルという女性とも互いに惹かれあうようになっていた。しかし、ジャックは次第に彼らに自分の過去を偽っていることに罪悪感を感じ、真実を告げたいと思うようになるのだが・・・。

タイトルはもちろん「少年A」から。

まず、主演のアンドリュー・ガーフィールドの演技が素晴らしい。英国俳優期待の若手という感じで今後が楽しみです。

そして、この作品、非常に淡々と静かでありながら全く退屈させずに最後まで一気に引き込まれてしまうと演出の上手さと、アングルやカットなどを含めた映像の美しさも見事。同監督&脚本作品の「ダブリン上等!」、未見なんですが、そちらも観たくなってしまいました。

正解のない深く難しい問題を投げかけてくる作品ですが、観終わった後にいつまでも、この問題が心のどこかにひっかかり、色々と考えるきっかけを与えてくれたという点でも、非常に価値の高い作品だったと思います。

これ、実際にイギリスで起こった非常に有名な事件が題材になっているのですが、凶悪な少年犯罪というのはどこの国にもあるもので、日本でもいくつか思い当たる事件があります。自分のすぐ側にいる大切な友人や恋人が、そんな過去を偽っているということを知ったとき、果たしてそれでも、今の関係を続けることができるのか。

これまで自分に見せていた顔は全て偽りの姿で、もしかして自分は騙されていたのではないかと思ってしまい、距離を置いてしまうというのが実際なんだろうなぁ。そうすると、そのような少年達の人生がどのようなものになるのだろうかということもとても難しい問題。

この作品では、被害者側が描かれることが皆無な上、主人公の少年が、事件を起こした過去の回想においてさえ、邪悪な少年という感じではないように描かれてるし、現在の彼も、繊細で不器用な一人の青年という感じで描いてくるため、我々は否が応でも、彼に親近感を覚え、同情さえしてしまうように意図的に作られていて、それがまた、上述の問題の複雑さを実感させるようになっているんですよね。

同じものを被害者家族の視点から描いたら、恐らく、ここまで複雑な気持になって見ることはなかっただろうなぁと。

ラストシーン、とても切ないのですが、その直前、主人公が1通の手紙を読むところがとても印象的でした。悪魔と呼ばれた彼ですが、あの手紙が彼の罪をすべて赦したわけではないけれど、彼の心にあった大きな重荷が軽くなったのも確かだと思います。逆説的になってしまうけれど、あの手紙があったからこそ、ラストシーンに自然につながっていたように思いました。

ジャックの世話をするソーシャルワーカーのテリーの親子関係がさりげなく描かれていくんですが、このシーンを含め、少年時代の犯罪をはっきりと描かないなど、作品全体に、表現が過剰ではなくて、観ている側が自分の想像で補える必要最小限の場面だけで、物語をつないでいくというのも自分は結構好きでした。

テリーを演じたピーター・ミュランのいぶし銀のような存在感も良かったです。

イギリスの青春映画ってやっぱり良いなぁ。

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コメント

こんばんは。
これは確かANDREさんがご覧になっていたはず…とお邪魔しました。
ジャックが無邪気で健気な表情を見せ、あんまり可愛く痛々しいものだから、
ずっと彼に寄り添って観てしまう分、もし彼がそうじゃなかったら、とか
実際に、凶悪犯だとされた、元少年が身近にいたとしたら…とか。
いろいろと深く考えさせられました。
そうでなくても、孤独な少年が1人で泣いていると、それだけで味方になってしまうわたしなので(苦笑)
本当に、難しいテーマの作品。余韻がいつまでも立ち去らない感じです。

『Dr.パルナサスの鏡』にも出演して大事な役どころのアンドリューくん、
わたしもてっきり英国人だと思ったら、彼はアメリカ人と知ってビックリ!
ここまで繊細な演技ができる彼に俄然注目してしまいます。

投稿: 悠雅 | 2010年2月 1日 (月) 21時37分

>悠雅さん

これは現実に起こりうるできごとなだけに、
本当に色々と考えさせられましたね。
自分も観終わった後に余韻が消えず、
ニュースなんかを見ていて
ふとこの作品を思い出すことがあります。

アンドリュー君、
英国作品の若手としてはかなり期待ですよね!
「わたしを離さないで」にも出演するらしく、
とても楽しみです。

投稿: ANDRE | 2010年2月 2日 (火) 11時48分

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