「きつねのはなし」 森見登美彦
きつねのはなし 森見登美彦 角川文庫 2009.6. |
いつも京都を舞台に、悶々とした京大生の青春を描く森見氏の短編集。
今回はいつもとはちょっと趣向が違っていて、あの擬似インテリ文体も封印して、京都を舞台にしたホラーテイストの作品を4つ収録した短編集となっています。
面白かったのは、いつもとは違う文体で書かれているにもかかわらず、いつも通りにレトロモダンな空気がしっかりと感じられたこと。現代を舞台にしているのに、明治~大正くらいの雰囲気が漂うんですよね。思ってた以上に文章が上手い。
ただ、世間では割と人気のある「夜は短し~」やこの作品と比べると、自分はやっぱり「太陽の塔」&「四畳半神話大系」のほうが好きかなぁ。
この短編集は、雰囲気ばかりが先行してしまってる感じで、「で?」って感じの印象で終わってしまう話ばかりだったんですよねぇ。レトロな空気の幻想譚という点では、梨木香歩の「家守~」のほうが好きですね。
読みながら思ったのは、京都の町ほど、現代の日本にありながら、幻想文学の舞台としてふさわしい場所はないのではないのでは、ということ。万城目学の「ホルモー」にしたって、京都の持つ、どこか不思議な空気が非常に生かされてますよね。
以下、ちょろちょろっと収録作品にコメント。
・「きつねのはなし」
作品の完成度としてはこれが一番高い気がする。
夜のお祭&きつねの面ってのが与える幻想感ってどこに由来するんでしょうかね。
・「果実の中の龍」
とにかく先輩のキャラクターが印象的です。
なんか、数年前に流行った映画を思い出させる切ない内容でした。
・「魔」
ジュブナイルな要素があって、結構好きな作品。
特に終盤の展開は、喚起させられるイメージに飲み込まれそうで、作品世界にどっぷりと浸かれたので、なかなか良かったです。
・「水神」
これが一番好きかなぁ。「ホラー」が一番感じられた作品。
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