「グランド・ブルテーシュ奇譚」 バルザック
グランド・ブルテーシュ奇譚 オノル・ド・バルザック 光文社古典新訳文庫 2009.9. |
人間喜劇という概念を知ったときから、ずーーーっと気になっているバルザック。どこから手を付けたらいいものやら迷いながらもうかなりの年月が経ってしまっているのですが、古典新訳文庫にて短編集が出たので、良いきっかけになると思い読んでみることにしました。
4つの短編と評論が1つ収録されています。
短編はどれも、悲哀の感じられる物語で、落としどころもしこりが残るような感じだったのがちょっと意外。全体的な印象としては、浪漫が好きだけれど、人間を観る眼差しは結構厳しいという感じです。
あと、それぞれに面白い個性が感じられるものが選ばれていることもあって、なかなか楽しく読むことのできる1冊でした。
以下、収録作品にコメントを。
「グランド・ブルテーシュ奇譚」
表題作。ちょっとポーの「黒猫」を彷彿とさせますが、「黒猫」よりもずっと厳しく残酷。物語がどちらに転ぶのかハラハラさせられました。
この手のお屋敷モノは英国が似合うイメージなので、フランスってのがなかなか新鮮。
「ことづて」
旅先で出会った友人の恋人に友の死を知らせに行く話。
これ、良い!!
特に、恋人の家に行ってからの情緒あふれる駆け引きがたまらなく素晴らしかったっす。
それにしても、表題作と言い、フランス人ってやつは・・・。っていうステレオタイプなイメージのままな設定が続きますねぇ。
「ファチーノ・カーネ」
老楽団員の武勇伝。
とっても正統派な構成の物語なんですが、とてもひきつけられる書き方で結構好きです。
バルザック氏の語り方は作品世界に引き込まれますねぇ。
「マダム・フィルミアーニ」
本題に入ってからよりも、導入部分の20ページ弱に及ぶ、様々な職業の人々によって語られるフィルミアーニ夫人の印象がとても面白かったです。
てっきり、最後までこのスタイルだけでつなげて、1人の女性を描き出す作品だとばかり思っていたのに(20ページも続くし)、後半は普通に物語が始まったので、ちょいと肩透かし。
バルザックの人間観察眼のようなものが炸裂していたと思ふ。
「書籍業の現状について」
19世紀の出版業界の現状に関して。普通に興味深い。
さて、人間喜劇、別に文字通りの「喜劇」だというわけではないことがよく分かったのですが、次読むんだったら何が良いですかねぇ。中編ねらいで「知られざる傑作」あたりにしようかなぁ。
そういえば、かつてフランスに旅行したとき、バルザックがすごしたというサッシェ城に行きました。「城」となっているけれど、近く(?)にあるディズニーのモデルにも使われたユッセ城などの「THE城」な建物と比べると、大邸宅といった趣でした。城内はバルザック文学館のような感じになっていて、様々な資料や、縁の品々が展示されてたんですけど、1冊も読んでいない自分には、興味深いけれど、そこまでの感動はなく、ちょっともったいなかったかなぁ。
バルザックがこの城に滞在してたのが丁度今回読んだ短編の執筆時期と被るみたいで、ちょっと懐かしかったので書いてしまいました。
せっかく話題にしたので、当時撮影した城の写真でも。
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