「真鶴」 川上弘美
真鶴 川上弘美 文春文庫 2009.10. |
芸術選奨文部科学大臣賞を受賞したことでも話題になっていた川上弘美の長編が文庫化。非常に評判が良い作品なので、川上ファンとしてはとても気になっていた作品です。
主人公は12年前に夫が失踪し、現在は、娘と母と3人で暮らす京。夫の日記に残されていた言葉を辿って、真鶴を旅する彼女は、既婚者である恋人と逢瀬を重ね、「ついてくるもの」の影を感じながら日々を過ごすのだが・・・。
これまでの川上作品の集大成だな、というのが第一印象でした。
この1つ前に読んだ「夜の公園」での必要以上な艶かしさも全てこの作品への布石だったのではないかと。しかも、最近の作品では影を潜めていた「うそばなし」が久々に登場し、「ついてくるもの」の存在が主人公を急き立て、物語を進めていくところがまた面白い。
ただ、これまでの作品と比べて男性キャラの魅力がイマイチだったり、美味しそうな食べ物が出てこなかったりってこともあって、そういう点での川上作品らしさはあまり感じられず。個人的にはもうちょっとほんわかした作風の作品のほうが好きなんだよね。
ちょっと粘着質が過ぎる印象で・・・。
失踪してしまい「いない」存在である夫が、12年経っても尚、主人公を惑わせる。いつも自分の近くにいる娘や母、そして恋人は果たしてどれだけ彼女の中に存在しているのか、そして、存在しない存在である「ついてくるもの」とはなにか。非常に考えさせられる作品になっていて、1回読んだだけでは、全貌をうまく把握し切れなかったというのが本音。これは気軽に電車の中なんかでのんびりと手にするのではなく、腰を据えてじっくりと向き合わなければいけない1冊なのかもしれません。
この作品、読み始めてすぐに分かるのは、読点の使い方が非常に特徴的だということ。川上作品は日本語の使い方がとても好きなんですよね。これまでは凝ったカタカナ表記の使い方などで楽しませてくれたんですが、この作品では、読み手の読み進めるテンポをいちいち乱してくる読点が、そのまま語り手である主人公の不安定な心情につながり、グラグラとしたアンバランスな感覚を読者にも伝えることに成功していたように思います。
そんなわけで、一筋縄ではいかない作品でした。
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