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2009年12月28日 (月)

「あなたが、いなかった、あなた」 平野啓一郎

あなたが、いなかった、あなた (新潮文庫)

あなたが、いなかった、あなた

平野啓一郎

新潮文庫 2009.7.
(original 2007)

実験的な短編集が続いた平野啓一郎ですが、こちらもまた実験的な要素の強い作品を含んだ短編集。

平野氏は基本的に文章がとても上手いと思うので、実験的な要素があっても、リーディビリティの高さが保持されているのが流石だなと思います。

以下、面白かった作品にコメントを。

・「やがて光源のない澄んだ乱反射の表で・・・/『TSUNAMI』 」

1ページに「やがて~」の小説と、絵のない挿絵と題された『TSUNAMI』の2作品が併記されているというちょっと凝った趣向の作品。

かなり面白かったです。「やがて~」はある年齢になると体から砂がこぼれるようになる、というなんとも見事な設定で老化が始まることを表現し、そのほかは我々の暮らす社会と変わらない世界に暮らす主人公の生活を描写するんですが、幻想短編としてのクオリティが普通に高い。

でもって、その物語とは一見すると無関係な内容が描写される「絵のない挿絵」。津波に襲われた砂浜を描いた短い文章なんですが、刻々と迫りきて、一気に命を奪う津波の恐怖が、「やがて~」で描かれる静かに迫りくる老化と見事に対比されていて、とても面白い構成になっていました。

・『フェカンにて』

どう考えても平野氏本人と思われる主人公がフランスを旅する私小説的一編。平野ファンとしては作品タイトルなどの微妙なずらし方にニヤリとさせられます。

作中で、小説の中で登場人物を殺すとはどういうことなのか、という考察がなされているのですが、それを受けて、主人公が「莫迦らしい気分になる」という下りへの運びがなんとも上手い作品。でももうちょい短くまとめてくれても良かったかな、という気も。

 

・「母と子」

全く同じ会話を様々なシチュエーションに当てはめる、というのを4パターン繰り返す実験的というか、小説の教科書的というか、な感じの一編。

割と、どのシチュエーションでも印象がそこまで変わらないんだなぁ、という感じでしたね。なんかもうちょっとあっと驚くようなパターンがあっても面白かったですかね。なんか、割と想定の範囲内のバリエーションだったというか。

あ、これ、変奏曲みたいな感じですね。なんか、そう思うと、いろいろと納得できるし、面白い。

 

・「慈善」

短編として普通によくできてるな、と思える作品。

ローマ字の間違いの使い方なんか本当に上手い。

 

平野氏の作品はやっぱり良いですね~。「ドーン」が読みたくて仕方ないんですが、文庫は3年後くらいなんだろうなぁ。でも、文庫化を待つ時間も嫌いじゃなかったりするんだよね。でも、やっぱり待ち遠しい。

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