「悪魔の涎・追い求める男 他8編」 コルタサル
悪魔の涎・追い求める男 他8編 フリオ・コルタサル 岩波文庫 1992.7. |
アルゼンチンの作家コルタサルの短編集。なかなか面白いという評判をよく耳にするので、どんなものかと、読んでみました。
収録されているのはタイトルの通りに短編が10本。幻想的な作品が多く、印象としては、マグリットなんかの絵画作品の世界観を小説にしたような感じでした。日常世界のすぐそばに幻想世界が広がっているのを感じさせてくれて、不思議な世界への入口を垣間見るようなゾクゾクとした感じがたまらなかったです。
おぉ、これがマジック・リアリズムか!て感じですかね。(こういうジャンル分けはあまり好きじゃないんだけど)
コルタサルは「石蹴り遊び」も読んでみたいなぁ。てか、集英社文庫が一時期南米文学シリーズを出してたのに、今はすっかり絶版状態。高校~大学入ったばかりくらいの頃に、このシリーズをまとめて買おうかどうか、書店でさんざん迷って、とりあえず見送ってしまったことが非常に悔やまれます。
以下面白かった作品メモ。
・「続いている公園」
マグリットとかエッシャーとかの世界をそのまま小説にしたような作品。2ページちょいの短さの中にゾクゾクとした面白さが。この作品を読んでいる我々がまた読者で、それを誰かが読んでいて・・・という無限ループを感じさせてくれるのがたまらないっす。もしかしたら収録されている10作品の中でこれが一番好きかも。シンプルな中にある奥深さが良い。
・「パリにいる若い女性に宛てた手紙」
子兎が!!
ビジュアルを考えると可愛いようなグロテスクなような。
てか、兎さんたちの処理のしかたが怖いよぅ。
ちょっとボリス・ヴィアン的な雰囲気が感じられたのが良かった。
・「占拠された屋敷」
ジワリジワリとなにものかに屋敷が占拠されていく恐怖。とても不条理なんだけど、こういう不条理って実は結構あるよね、と思う。
・「南部高速道路」
大渋滞の中でできあがる素敵なコミュニティ。
とっても楽しい作品で、どこか怖さを感じるのとはまた違う幻想世界がとても良かった!
実際問題、こんなことになったらかなり大変だろうし、てか、いっそのこと歩けよ!とか、突っ込みたいこともいっぱい出てくるんだけど、この人間模様を前に、もう何も言えません。
主人公が最後に感じる思いって、友達と一緒に長期間の旅行に行った帰りとかに、突如としてまたいつもどおりの日常に戻るということにどうも実感が得られないときの、なんとも表現しがたい気持ちと一緒ですよね。読み終えるとき、僕もまたちょっと淋しかったです。
お気に入りは大体このあたりでしょうか。ちなみに表題作にもなっているちょっと長めの「追い求める男」はあまり好きではありませんでした。
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コメント
私も持ってます。
まだ読んでませんが・・・
昨日本屋さんで同じ岩波文庫でアストゥリアス「グアテマラ伝説集」というのを見つけて買ってきました。
私の場合、南米文学、面白いけど暑苦しいので、読み出すまでに時間がかかります。こうして積ン読が増えていくのですね~。
投稿: piaa | 2009年12月21日 (月) 00時30分
>piaaさん
自分も、買ってから読むまでに結構時間がかかったのですが、
いざ読み始めたらあっと言う間でした。
南米ものは気になりつつも、
未だ定番作品でさえまともに読めていないので、
いつかちゃんと読んでみたいなぁと思っています。
「グアテマラ伝説集」は今月の新刊ですよね。
自分も買ってきたのですが、
積読がかなりたまってしまっているので、
読めるのは少し先になりそうです。
投稿: ANDRE | 2009年12月21日 (月) 00時53分