「それからはスープのことばかり考えて暮らした」 吉田篤弘
それからは 吉田篤弘 中公文庫 2009.9. |
吉田篤弘作品、今年は文庫化ラッシュですねぇ。この作品、なんとビックリ、『つむじ風食堂』に続く月舟町シリーズの第2弾なんですね!!!出版社が違うので、そこに関しては、読み始めるまで、完全にノーマークでしたよ。
仕事を辞めて月舟町に引っ越してきた主人公の「僕」ことオーリィは、時間を見つけては映画館<月舟シネマ>へ通い、そこでかかる古い作品を観ていた。近所にあるサンドイッチ屋「トロワ」の常連となった彼は店主の安藤さんやその息子とも親しくなり、やがて、サンドイッチ店を手伝うようになるのだが・・・
最近読んでいた吉田作品は正直、どこか物足りなかったんですが、これは久々にかなり良かったです☆ますます月舟町に住みたくなっちゃいますよ!
連作短編になってるのかと思いきや、結構しっかりと長編だったんですが、まさに「スープ」のような温かさで満ち溢れていて、すぐに読み終えてしまう軽さの中に、ギュギュギュっと人情が詰められた作風はやっぱり大好きです。
出てくる登場人物たちがとにかく愛らしいのに、そこに、映画やらが絡んできたらもうたまらないですよ。
作中に『口笛』という映画が出てくる場面で主人公が「ごくふつうの町の人たち」が「何も起こらず、何も動かず、何も変わらないのに、それでもやはりうつろいうゆくもの」がある作品について語るんですが、この小説こそがまさにそれなんですよね。
そして、「主役のいないスープ」という表現も見事なまでにこの作品を表わしていて、主人公の語り手がいる一方で、ここまで愛すべきキャラがたくさん登場して、そのアンサンブルによって紡ぎだされる温かな物語は、温かいスープを飲んだ時のようにホッと安心する心地にさせてくれました。
この作品、携帯電話が登場するんですが、携帯って吉田作品のレトロな世界観にはあわないような印象だったのに、「電報」というまさかのウルトラCで見事にその作風に溶け込ませてしまったのには本当にやられてしまいました。これだからクラフト・エヴィング商會は素敵過ぎるんだよ!!
そんなわけで、「つむじ風食堂」に負けず劣らずの素晴らしいシリーズ第2弾でした♪
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
月舟町、住んでみたいですよね〜。
私も大好きでたまらない作品です。
>「電報」というまさかのウルトラCで見事にその作風に溶け込ませてしまった
↑
確かにそうですね!!!
投稿: kiiro | 2009年12月29日 (火) 13時37分
>kiiroさん
コメントどうもありがとうございます。
「つむじ風食堂」と言い、
本当に月舟町に住んでみたいですよね~。
月舟町シリーズ、もっと続いてほしいなぁと思います。
投稿: ANDRE | 2009年12月30日 (水) 00時52分