「ミーナの行進」 小川洋子
ミーナの行進 小川洋子 中公文庫 2009.7. |
発売と同時くらいに買っていたものの、小川洋子作品は、扱う題材は好きなのに、どうも好きになれなかったという感想で終わることも多いので、なかなか手が出せずにしばし積読されていた1冊。
もっと早く読んでれば良かったな、と素直に思える名作でした。
1972年、朋子は中学に上がると同時に、家庭の事情で神戸にある伯母の家に預けられることになる。清涼飲料水メーカーの社長である伯父の家は、大きな洋館で、朋子はそこで体の弱い1つ年下の少女ミーナと出会い、2人は親友となる。ドイツ人であるミーナの祖母ローザさんや、庭で飼われているコビトカバのポチ子など個性豊かな家族たちと過ごした1年を描く。
1年の最後の最後で、年間ランキングに大波乱を起こす名作と出会ってしまいました。過去に読んだ小川作品の中でもダントツ1番にお気に入りの1冊。
「ミーナの行進」の情景など、ファンタジックな要素もあり、確かにフィクションではあるんだけど、とても説得力のある語りでこの世界をすんなりと受け入れることができるんですよね。
描かれるエピソードは、とてもドラマチックというようなこともあまりなく、事件もあるけれど、日常の域は出ていません。楽しい出来事ばかりではないけれど、小さなマッチ箱に素敵な物語が隠されているように、語り手である朋子人生において、この1年のささいな日常がキラキラと輝いていたということが、これでもかというくらいに伝わってくる空気感の描写の上手さは見事でした。
あと、大人の事情が色々とあったのだろうなということが感じられるんですが、あくまで主人公である朋子の視点で描かれる物語であり、子供には大人の事情は計り知れないのだ、ということが貫かれていたのも個人的にはかなりポイントが高かったです。
読み進めていると、「もしやラストは・・・」と不安になってくるのですが、そんな読み手の不安を爽やかに裏切ってくれる終わり方だったのがとても嬉しい。凛として未来に向かって歩いていくミーナの力強さは本当に気持が良かった!
最後の最後、現代がちょっとだけ描かれるんだけど、もうちょっとあっさりとした描き方のほうが少女時代の物語の余韻が強く残ったかなぁという気も。
そんなわけで大満足の1冊だったわけですが、よく見てみると、谷崎賞受賞作品なんですが、このときの選考委員、池澤夏樹、川上弘美、筒井康隆、井上ひさし、とのこと。そりゃ、僕の好みの1冊だろうなぁ、ってのをものすごく納得。
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