「小学五年生」 重松清
小学五年生 重松清 中公文庫 2009.12. |
小学五年生の少年たちを主人公にした物語を集めた短編集。
小学生たちばかりが主人公の短編集というのは重松作品の中でもなかなか珍しいですが、重松氏が五年生という10代の入り口に立ったばかりの子供達をどのように描くのかというのはなかなか興味深いところ。
各話のページ数がかなり少な目でこじんまりとまとまっている作品が多かったので、もうちょっと読みたいな、と思うものもチラホラ。
あと、転校ネタのときとか、重松氏自身の思い出の思いいれが強すぎるかな、というのが感じられる話がチラホラあって、読んでいて、それが気になってしまうときがありました。
そんなこんなですが、全体的には軽く重松節を味わえる短編集になっていて、なかなか面白い1冊でした。
小学生を主人公にしてはいるけれど、どちらかという大人向けという印象が強くて、表紙の後ろ向きの少年のようにちょっと哀愁を感じつつ読むという雰囲気の作品ですね。
以下、気にいった作品いくつかの簡単にコメントを。
・「おとうと」
弟が手術を受けることになった少年の物語。
収録作品の中ではこれが一番好きだったかなぁ。自分も2人兄弟なので(弟のほうですが)、子供の頃、兄の後ろについて遊んでたこととか思い出してみたり。天邪鬼な感じだけど、愛に溢れた様子がなんとも泣かせます。
・「カンダさん」
隣の家のお姉さんの婚約者カンダさんと少年の物語。
二度と会うことはないかもしれないけれど、カンダさんの存在が少年の中にいつまでも残るんだろうな、という余韻が良かったです。こういうちょっと複雑な人間関係が描かれる作品って少ないですよね。まとめ方の上手さはさすが重松清、といった感じです。
・「南小フォーエバー」
転校していった友人を訪ねる少年の物語。
いくつかある転校モノの中で、一番好きだったのはこの作品。転校する側の視点ではなく、された側の友人の視点なんだけど、転校する側が主人公だった物語と同様に、子供達は新しい環境に順応し、その人間関係は残酷なまでに次々と変化していく。
とても仲の良かった友人たちが、いつの間にか遠い存在になってしまうんだけど、それでも確かに仲良く過ごしていた日々というのは心の中に残ってるんですよね。自分が子供の頃のこととかいろいろ思い出しながら読んでしまいました。
ちなみに転校などしなくても、結構クラス替えだけでも友人関係はガラリと変わりますよね~。
・「ケンタのたそがれ」
父を亡くし、母が働き始め、少年は独りになる・・・。
五年生、留守番も家事の手伝いもできるかもしれないけど、まだ五年生。少年の心の叫びがあまりに切な過ぎる物語でした。
・「バスに乗って」
入院した母のお見舞いのため、バスの回数券を買って病院まで通う少年の物語。
他人が見たら子供っぽいし、くだらないことなのかもしれないけど、少年が一生懸命、何かにしがみついて信じている姿がまた泣かせます。なんといってもバスの運転手さんが最高に良い。
・「すねぼんさん」
父が亡くなり、引越しをするトラックに乗っている少年の話。
ドライブインの駐車場の描写で涙腺が・・・。
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