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2010年2月25日 (木)

映画「コララインとボタンの魔女 3D」

 

Coraline

アメリカ

2008

10年2月公開

劇場鑑賞(3D字幕)

愛してやまない映画、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のヘンリー・セリックが手掛けるストップモーションアニメということでとても楽しみにしていた作品。別に3Dに興味はないので、2Dでも良かったのですが、3D上映ばかりなので、ついに初3Dを体験してきました。ついでに吹き替え版ばかりだったので、都内唯一の字幕上映だった六本木ヒルズにて鑑賞。やっぱりダコタ・ファニングの声で観たいですから!

セリック監督の作品を観るのは、「ナイトメア~」、「ジャイアント・ピーチ」(「ナイトメア~」が人気ですが、こちらもかなりオススメです)につづいて3作品目ですが、この2作はDVDまで持っていて何度も観ているお気に入り映画です♪

主人公の少女、コララインは園芸の本の原稿にかかりっきりの両親から相手にしてもらえず、引っ越してきたばかりの新居で時間を持て余していた。近所の住人を訪ねて回ってもどこか風変わりな隣人ばかり。

そんな折、家の中に壁紙で覆われた鍵のかかった小さな扉があるのを発見したコララインは母に頼んで、扉の鍵を開けてもらうのだが、扉の向こうには何もなく壁のレンガが顔をのぞかせているだけであった。

その夜、物音で目を覚ましたコララインは昼間には何もなかったあの小さな扉の奥に通路があるのを発見する。通路の向こう側は入ってきたときと同じコララインの家だったのだが、かけてある絵の様子などところどころが違っている。そして、扉の向こうの家で彼女を待っていたのは、両目がボタンになってしまった両親。もともといた世界の両親とは違い、ボタンの目を持つ「別の」両親たちはコララインの理想とする両親そのもので、コララインは幸せな時を満喫するのだが・・・。

噂にたがわずなかなか面白かったです。

こういうストップモーションアニメの持つ「本物」の魅力って何なんですかねぇ。CGのアニメってどんなにCGが進化したと言われても、未だに「CGにしてはリアル」の域を出ていないと思うんですよね。この作品だってCGで制作することだって可能だったと思うし、これを見てとてもリアルなCGアニメだと思う人もいるんじゃないかと思うんですが、どこが何って言えないんだけど、CGとは違う何かが確実にあると思うんです。芸術作品的な美しさというか。

サーカスとか、裏の(?)世界の庭とか、観ているだけでワクワクしてしまう造形の見事さは流石!でした。

ただ、欲を言えば、キャラクターのデザインがティム・バートンだったらなぁ・・・と。主人公のコララインをはじめとして、人間キャラクターのイラストのタッチがあまり好きじゃなかったです。動物は良かったんですけどねぇ。

どのような物語なのか、事前に一切情報を仕入れなかったので、ストーリーがどう展開していくのかわからず、「ボタンの魔女」の「魔女」がいつどのように出てくるのかとワクワクしながら見られたのも良かったです。

ハッピーエンドではありますが、双子の妹たちのことなどを思うとちょっとさびしいですよね。あと、いかにも悪役な感じで登場する「魔女」ですが、その方法が良いかどうかはさておき、彼女はきっと耐え切れないほどの孤独を感じているんだろうな、と思うと、ちょっと複雑な気持ちになるのも事実。この物語、表面的な勧善懲悪以上のものがあるように思います。

壁の向こうの世界はコララインの心象風景なんだと思うんですが、そのあたりちょっと「Dr.パルナサス」なんかとも共通する感じですよね。ただ、気に食わない隣の少年や相手にしてくれない両親など不満がたくさんあったとしても、「本物」の世界の持つ温かみに勝るものはないわけで、手袋の場面に感じられた温かさといったら!

土嫌いな園芸家とか、そういうところにも「虚構世界」というテーマが感じられて、結構一貫した主張のある作品だったように思います。現実にも似たような虚構は溢れているというブラックな解釈もできますが・・・。

この辺、ちょっとCGかストップモーションアニメかというところにも通じているように思い、この作品がCGではないことにも大きな意味があったではないでしょうか。

ボタンの目というのも、表情がまったく読めないばかりか、しばしばプライバシ保護のために目を隠すように、その人の存在そのものを曖昧にしてしまうのではないかな、と思います。実際、コララインは、名前まで変えられそうになっているわけですし。ちょっと空虚な理想世界よりも、リアルな人間関係のほうが良いというメッセージはそんなところにも感じられますね。てか、ネットの匿名性とかともつなげたりしたら、割と現代的に深いところまで掘り下げられそうな作品ですね。

あと、壁にある小さな扉だとか、しゃべる猫だとか、穴をくぐって別の世界に行くとか、全体的に「アリス」っぽいモチーフが多くて、アリス好きとしてはなかなか嬉しかったです。(4月が楽しみ!)

結構たくさんの賞を受賞しているという原作も気になるので、これは是非読んでみようかと思います。

さて、声優さんですが、吹き替え版を見てないので比較はできませんが、オリジナルの字幕版を見て大正解!と思いました。ダコタ・ファニングは期待を裏切らないですね。ちょっとした言葉回しの間とかがとても上手いし、なんといっても、結構特徴のある声だ思っていたのに、声だけを聞いて、彼女の顔がぜんぜんちらつかなかったのですよ。俳優が声優をするときってどうしても顔がちらつくことが多いですよね。

あと、ママを演じたテリー・ハッチャー、「デスパレートな妻たち」のダメダメなスーザンとはまるで違うイメージの役で、これまた上手かったですね~。彼女は思ってた以上にひきだしが多そうです。

* * *

参考過去レビュー

「スターダスト」

同じく二ール・ゲイマン原作のファンタジー映画。

 

「ルート225」

ちょっとだけ違うパラレルワールドに迷い込む、という共通(?)点。

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コメント

こんばんは。
確かにこのデザインは好き嫌い分かれそうですね。
正直いうと私もあんまり好きなタイプじゃありません。
ただまあ、日本人の上杉忠弘さんがイラストを書いて
アニー賞獲ってるんで、別な意味では嬉しいんです
けどね。^^;
吹替え版はコララインがちょっと今一つでしたが、お母さん
と魔女は戸田恵子さんですから流石でした。個人的には
黒猫の劇団ひとりさんもハマッてて好きです。

投稿: KLY | 2010年2月27日 (土) 00時29分

こんにちは。
きっと何も知らずに「リアルなCG」だと思ってご覧になる方もいらっしゃるような気がしますね。
CGを否定するものじゃないんですが、
人間の手仕事を実感できる質感とでもいうのか、
そんな作品を作ろうと目指して、きちんと形にした姿勢に惚れるというのか、
何か、言葉には言い表しにくい部分に惹かれるんだろうと思います。
かといって、時代に逆行するだけじゃなく、取り入れる技術は取り入れ、
自分の作品の脇役に回しているところも、何か好ましいんですね。

誰の目線で見るかで、違う貌を見せる作品だと思うんですが、
そうか…魔女の立場になったら、それはどんなに孤独なんだろうと思いますよね。
だから、アプローチが間違っているんだ、ということに気づけないまま
あ~んな結果になっちゃうんだもの。
もう1回、チャンスをあげたくなっちゃう(それも困るんですが)。

見た目以上に多面性を持つ、いろんな意味で面白い作品だったと思います。

投稿: 悠雅 | 2010年2月27日 (土) 10時17分

>KLYさん

映画のポスターや本の表紙などの上杉氏の絵は結構好きなのですが、この映画のキャラクターはなんかいつもの彼のタッチと違っているように感じ、ちょっと馴染めませんでした。アニー賞の受賞は嬉しいんですが・・・。

戸田恵子や劇団ひとりはなかなか合ってそうですが、榮倉奈々を使うのであれば、もっと年齢の若い女優さんのほうが合ってるのではないかなという気がします。実際の声を聞いてないので、なんともいえませんが。

* * *

>悠雅さん

CGだと思って観ている人もかなり多いでしょうね。
ウォレスとグルミットのアードマンスタジオや、
ヘンリー・セリック監督の作品はなんともいえない温もりがあって
どんなにCGが進化しても
こういう芸術は残っていって欲しいなと思います。

魔女は自分で作り出した幻に囲まれることしかできず、
「ニセモノ」の持つ空虚さを一番知っているのは
彼女だったのではないかなと思ってしまったんですよね。
ま、子供たちも結局は食べるのが目的のようでしたが・・・

もしかしたら原作にはもっと色々なことが
描かれているのではないかと思ったので、
機会を見て原作の方も読んでみようかなと思ってます。

投稿: ANDRE | 2010年2月28日 (日) 00時58分

TBコメントありがとうございました。

>キャラクターのデザインがティム・バートンだったらなぁ・・・

これ、すっごくわかります!
「ナイトメア~」と違って原作がティム・バートンではないので、ヘンリー・セリック+ティム・バートンという組み合わせはそもそもありえなかったのかもしれませんね。
でも雰囲気や世界観を考えると、ぜひティム・バートンのキャラで観たかったなと私も思ってしまいます。

投稿: SOAR | 2010年2月28日 (日) 23時48分

>SOARさん

コメントどうもありがとうございます。

もともとヘンリー・セリックの世界には
バートンを通して入ったこともあって、
この内容と世界観だったら、
バートンの絵で観たかったなぁと思ってしまうんですよねぇ。
ご共感いただけて嬉しいです!!

投稿: ANDRE | 2010年3月 2日 (火) 00時59分

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