「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」 万城目学
かのこちゃんとマドレーヌ夫人 万城目学 ちくまプリマー新書 2010.1. |
『鴨川ホルモー』などで話題の万城目氏の最新刊が新書で出版されました。「文庫派」な自分は、ドラマで『鹿男』は見たのですが、実際に著作を読むのは『ホルモー』に続いて2冊目。こうして新書でオリジナルの長編が出たりするのは大歓迎ですね~。
小学1年生のかのこちゃんの家では老犬の玄三郎とゲリラ豪雨のときに迷い込んだ猫のマドレーヌを飼っている。世界の様々なことに興味津々のかのこちゃんは、「刎頚の友」すずちゃんと共に驚きと発見に溢れた毎日を過ごしている。
一方、猫達の世界では、マドレーヌは、犬語が分かる上品な猫ということで、「マドレーヌ夫人」と呼ばれていた。
かのこちゃん、マドレーヌそれぞれの視点で描かれる温かく切ない物語。
『ホルモー』は良くも悪くも漫画みたいな小説で、つまらなくはないんだけど、あまりにエンタメ過ぎる気がしたし、ドラマで見た限り『鹿男』もかなり風変わりな作品でした。ところがところが、『かのこちゃん~』、なんとびっくり、読んでいる間思わず笑顔になってしまうような、ほんわかと心温まる小説でした。
いやはや、万城目氏、こういう作品も書けるんですねぇ。そうなってくると、今後、どのような作品を書くのかというのが、ちょっと楽しみになります。
まず、マドレーヌ夫人というのが猫の名前であることに驚かされ、さらに、物語が猫視点で展開することにおや?と思います。で、そのまま続くのかと思いきや、今度はかのこちゃん視点が。こういう作品全体の構成からしてワクワクさせてくれましたね~。
幻想的な猫又の場面なんかも登場しますが、マドレーヌ夫人と玄三郎との関係がなんともいえずにほのぼのと温かくて、ゲリラ豪雨での出会いからラストまで読んでいてとてもほんわかとした気分になれました。
あと、驚きと発見に満ち溢れた子供の世界がキラキラと展開するんですが、一方で、「刎頚の友」のエピソードに見られる子供特有の汚い純粋さみたいなものもちゃんと描かれていて、それが一層2人の少女のやりとりを心温まるものにしていたように思います。好きな場面はお茶会のところですね。「ござる」を使っている姿がなんとも可愛らしいです。
ゲリラ豪雨を覚えられないかのこちゃんが、すずちゃんの前ではいつも家で使う表現を用いないとか、細かい描写もよく行きとどいてましたよね~。
ところで、「かのこ」って名前は「鹿の子」ですよね。お父さんは鹿と話したことがあるとか、物語世界がリンクしてるのか!?と思わせる作者の遊び心も憎い作品でした。
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