「マンスフィールド・パーク」 ジェイン・オースティン
マンスフィールド・パーク ジェイン・オースティン 中公文庫 2005.11. |
昨年のはじめに「今年はオースティン制覇!」などと言ったにも関わらず、結局1冊も読まなかったのですが、4年以上積読されていた1冊をようやく読みました。積読の理由は700ページという分厚さ。電車で立っているときに読むと普通に手が疲れます・・・。
主人公ファニー・プライスは実家が貧しく、伯母のバートラム令夫人の家に里子に出され、マンスフィールド・パークという広大な敷地を持つお屋敷で暮らすことになる。
居候の身であることから皆から距離をおいて接せられていたファニーだったが、2人の従姉妹と2人の従兄弟たちの中でも、良識があり信頼のおける次男のエドマンドに心を寄せ、エドマンドも良き相談者としてファニーに信頼を寄せるようになっていく。
そんなあるとき、近隣に引っ越してきたヘンリーとメアリーのクロフォード兄妹がマンスフィールド・パークの人間関係に波乱を招く・・・。
かなりの大作でしたが、なかなか面白い作品でした。近所に引っ越してきた新参者というのはオースティン作品お馴染みの出会いのパターンですね。
後年に書かれている作品ということもあって、『高慢と偏見』や『感性と知性』なんかよりも、人間描写が深まっていて、主人公たちの恋模様以上に、様々なかけひきに満ち溢れた人間関係をたっぷりと楽しむことのできる小説でした。
主人公がとてもよくできた娘さんで、自分が居候の身であることをわきまえた上で、常に控えめにふるまう一方で、他の従姉妹や伯母、隣人たちの身勝手さはときに滑稽でもあり、非常にスリリングな時もあり、なかなかの読み応え。読みながらワイワイつっこみを入れると心の中で大盛り上がりすること間違いなしです。
要所要所に盛り上がりを見せるイベントが用意されていて、かなりの長編なんですが、続きが気になってしまって一気に読みたくなってしまうのは、流石はオースティンといったところでしょうか。
演劇の場面は圧巻で、2人の姉たちはここぞとばかりに頑張って、皆の思惑が入り乱れる様は非常に面白いのですが、の終焉の迎え方がまた面白い。サー・トーマス強し。そして、このときの長男トムの空回りっぷりも面白いのですが、ヘンリー君とイェイツ君の振る舞いもお見事。てか、この2人が最終的には・・・と思うと、父もやりきれない思いでいっぱいに違いない。立派なパパなのに娘には手を焼かれちゃうところとか、妙にリアルです。
割と地味ながらもぼんやり奥様のバートラム令夫人がイベントごとにからんできて、いちいち誰かがお相手しなくてはいけないってので、皆さんがゴタゴタするのも愉快でしたね。前半の遠出するところでの、お嬢様方の阻止っぷりもかなりの見どころ(読みどころ?)でした。
あと、後半の目玉はなんといっても実家への帰省。マンスフィールド・パークにいても気を使ってるのに、実家に帰っても気を使うファニーが気の毒だよぅ。そして、ここからは、オースティンの人間観察劇場~手紙編~が炸裂!てかメアリーの手紙とか思わず笑ってしまいますよ。しかも、ポロリと本音を吐いてしまう感じとか非常に上手い。
てかクリフォード、あれだけしつこかったのに!!
悪役としてのノリス夫人も最後の最後まで我が道を貫きますが(『大奥』かよ!みたいな勢いです)、お坊ちゃんラッシワース氏のダメダメっぷりも最後まで見逃せませんでした。
そんなわけで、最後は幸せを手にするわけですが、見ようによっては、KY発言&行動連発の自己中心的な人々が自滅するのをじっと耐え忍んで、そっと影から人の流れを読みながら待ち続ける主人公の物語って感じですよね。このあたりの主人公の存在感の地味さは好き嫌い分かれるところみたいですが、自分は嫌いではありません。
あそこまで散々な言われようだったのに、実は一番しっかり者な上、容姿まで奇麗になってたっていう夢物語的な設定ながらいたって地味ってのが面白いですよね。
ただ、相手役のエドマンド君は、みんなから頼られているしっかり者みたいな設定になっているけど、いざというときに役に立たないタイプですよね。実際に彼が出て行って、ちゃんと解決した問題ってどれだけありましたっけ??気付いたら一緒に劇の練習しちゃってるし。
確固とした性格づけのなされたそれぞれのキャラの設定を通して、様々な人間の性格や生き方を的確に描写していくオースティンの手腕が見事に発揮された長編だったと思います。小説内では描かれていないようなサイドストーリー的なものまでもがあれこれとどんどん妄想が広がっていきます。
この翻訳、そんなに古くないのに、微妙に読みづらいです。堅い漢字が多いし、表現も全体に堅め。もうちょっとさらっと読める訳のほうが好きですねぇ。ま、最終的には原書読めばいいんだろうけど・・・。
あと序盤は家系図をメモしながら読むと分かりやすいですね。同じ人物が色々な表記で登場するのも慣れるまでちょっと大変。
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