「ひとり日和」 青山七恵
ひとり日和 青山七恵 河出文庫 2010.3. |
芥川賞受賞作は文庫化したらとりあえず読むことにしているのですが、こちらは第136回の受賞作。
主人公の知寿は20歳。2人で暮らしていた母親が仕事で長期間中国に行くことになり、母の古い知り合いである東京に暮らす71歳の吟子さんの家に居候することになるのだが・・・
今時の「なんとなく生きてる」感じの若者が、老人と2人で暮らす中で、失恋したり、新しい仕事を初めてみたり、新たな恋を経験したりして、ちょっと成長したかな~どうかな~、という感じの最近よくある感じの小説でしたね。
170ページ弱くらいあって意外と長い作品なんですが、描かれている内容は特に170ぺージ使わなくてもいいのではないかという気がしないでもないです。
自分の暮らす小さな世界に安住してしまう主人公を描くんですが、外の世界に目を向けようとする人々は主人公のもとから離れていき、同様に一人で生きることに慣れてしまっている吟子さんの姿が主人公と上手く被ってるんですよね。ただ、吟子さんは、人生のすべてを一人で過ごしたわけではなく、様々な経験を経て最終的にその境地にたどり着くのと、主人公の生き方とはやっぱり違いますよね。この主人公の生き方は支持されにくいのではないかなぁ。
この作品、結構技巧的というか、主人公の生き方が、色々なモチーフに反映されていて、コレクションだとか、駅のホームから見えるのにたどり着けない家だとか、ちょっと設定にわざとらしい不自然さが感じられてしまったのがちょい残念。
一方、同時収録の『出発』は結構お気に入りの作品。
新宿はよく行くので、描かれてる場所が具体的に頭の中で地図化できたので読みやすかったですし。
実在する具体的な商品名や店舗名など固有名詞を連発する作品ってあまり好きじゃないんですが、この作品には、新宿というものをしっかりと描写することにちゃんとした意味がある。まぁ、これもちょっと技巧的すぎるというかわざとらしい感じがしないでもないんだけど。これがこの作者の特徴なんですかねぇ。
年賀状の印刷と、やってる仕事の内容も些細かもしれないけれど、彼はこの時確かに、「いろいろがいろいろな」この町に存在していたのであって、恐らくなんとなく生きている今時の若者であったであろう主人公が、自分と言う存在が「なんとなく」なものではなく、自分で動け自分の世界を動かせるのだという気持ちを抱いたであろうラストは爽快感さえ感じさせてとても良かったと思います。
『ひとり日和』といい、なんとなく自分の小さな世界に安住する主人公がそこから踏み出す小さな一歩をつかみとろうとする姿を描くというのがこの作者のテーマなのかもしれないけれど、それだったらシンプルに短くまとまっている『出発』のほうが僕は好きです。
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