「猫の客」 平出隆
猫の客 平出隆 河出文庫 2009.5. |
先日読んだ「ひとり日和」の後ろの河出文庫の既刊紹介に載っているのが目にとまり面白そうだなと思い手に取った1冊。
語り手である主人公は稲妻小路と名付けた通りにある屋敷の離れに妻と二人で間借りして暮らし始める。あるとき、隣家で子猫を飼い始め、その猫が頻繁に主人公の暮らす離れを訪れるようになる。その猫をチビと呼び、夫妻は次第にその存在を愛おしく感じ始めるのだが・・・。
どこまでフィクションなのかがほとんど分からない私小説ですが、自然描写をうまく練り込んだ文章がなかなかに心地よい作品。
家も猫も自分のものではないけれど、主人公夫妻の心にしっかりとその存在が刻まれ、なくてはならないものになっていく。基本的に可愛がるだけで良いので、こういう風によその家のペットを可愛がるというのは多分に良いとこどりなんだろうなぁ、とか思ってみたり。
ただ、多少のいざこざがあったとしても、このように文章の形となって、家も猫も持ち主がいなくなってしまった後でさえも、その存在が永遠に生き続けるというのはなんとも味わい深いものです。
バブル崩壊前夜が舞台となっていて、終盤以降の寂寥感漂う展開がうまいこと時代の空気とリンクしていたり、ラストのやや取ってつけたようないかにもな推測など、ちょいとできすぎではないかという気もしないでもないですが、そこはやはりこれがエッセイなのではなく小説なのだということなのかもしれません。
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