「The Palm-Wine Drinkard」 Amos Tutuola
the palm-wine drinkard Amos Tutuola 1952 (邦題:『やし酒飲み』) |
各所でこれは面白いという情報をよく耳にするナイジェリアの作家、エイモス・チュツオーラの「やし酒飲み」。この作品がもともと英語で書かれたということを知り、せっかくならば勉強も兼ねて原書で読んでみようかと思い挑戦してみました。
「やし酒飲み」である主人公は、日々、やし酒を飲むだけの生活を送っていたのだが、あるとき、その酒を作っていたやし酒作りが亡くなってしまう。困ったやし酒飲みは、やし酒作りの名人を探しに旅に出るのだが・・・
なんというか、まず、英語が非常に独特な作品でした。誤字脱字や文法の間違いも多いし、モノや人物が登場するたびに代名詞などを使わずに長い肩書きを何度も繰り返すし。しかし、この語り口調が逆に、素朴さを感じさせるし、村の長老か誰かが我々に向かって物語を語って聞かせてくれているような不思議な錯覚に陥って、言葉そのものに魂が宿っているとでもいうような感じを受けました。
物語のほうは、自分が読む前に勝手に想像していたのとは大分異なった趣だったんですが、結果的に良い方向に裏切られましたね。
民話的な物語になっている複数のエピソードを集めて1つの長編にしているという感じで、民話好きな自分のツボに見事にはまってしまいました。
お気に入りエピソードは、体の部分が次々になくなっていく男の話(最終的に頭蓋骨だけって・・・)、焼け跡に現れたちょっと怖い子供の話、あとは、擬人化された「dance」、「song」、「drum」の3人が出てくる場面かなぁ。
当初の目的はどこへやらと言った感じで普通に途中で立ち寄った村に何年も滞在したりする呑気さとか、ややぶっきらぼうなストーリー展開とか、術を使って変身して逃げるというご都合主義万歳な荒唐無稽さだとか(その能力、もっと早く使えよ!みたいなツッコミどころも多くて楽しい)、とにかく物語も非常にユニーク。
かといって、稚拙な物語を読んでいるという印象は全然なくて、むしろ、この不思議な世界観にクラクラときてしまい、気づけばどっぷりとはまってしまうというなんともいえない魅力にあふれた作品だったように思います。知恵を振り絞って様々な魔物たちと闘ったり冒険したりするワクワク感を久々に堪能できて、噂にたがわず面白い1冊でした。
以前、大英博物館に行った際、地下のアフリカのフロアの展示のユニークさと、不気味さにゾクゾクしたんですが、彫刻とか、お面とか形のある芸術品だけではなく、文学というジャンルにおいてさえ、あのときと同じゾクゾクを味わうことができるとは思っていなかったので、アフリカンアートの奥深さにただただ圧倒されっぱなし。
南米系の作品と同様に、素朴ながらも最先端のさらに先を行く想像力が爆発してますよね。暑い国の物語は色々な意味で熱い。
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