「文字移植」 多和田葉子
文字移植 多和田葉子 河出文庫 1999.7. |
ずっと読みたくて探していた1冊を7月に国際ブックフェアにて発見。
主人公の女性翻訳家は海外の火山島にある知人の別荘に滞在し、現代版聖ゲオルク伝説を翻訳している。しかし、翻訳は思うように進まず並べられた単語の羅列を前に、彼女は島内を彷徨い歩く。
これはストーリーを味わうというよりも、「翻訳」という作業の持つ居心地の悪さをそのまま翻訳家の島での暮らしの中に具現化した作品という感じですね。
バナナ園とか、作者との散歩とか幻想的なエピソードの中に、ちょいちょい面白い表現が出てきて、この作家の書く日本語はやっぱり面白いなぁと思いつつ、全体的にすっきりと分かりやすい作品というわけでもないので、読むのはちょっと大変で、完全には理解しきれず、どこか消化不良な感じなのも事実。
作中で彼女が行っている翻訳は、逐語訳であって(まさに文字の移植)、果たしてこれを小説の翻訳として提示するのはどうなのか、ということに関し、なかなか興味深い議論が繰り広げられていて、その部分だけでも読む価値ありだと思います。
ラスト、彼女が郵便局に向かう途中、いつの間にか、自分が翻訳していた作品にとりこまれてしまうという突然の幻想的な展開に戸惑いつつ、この部分を含めて、全体に作品の雰囲気は結構好き。
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