「最後の命」 中村文則
最後の命 中村文則 講談社文庫 2010.7. |
昨年刊行の「掏摸」が話題となった芥川賞作家、中村文則の作品です。
主人公の青年は長く疎遠になっていた幼馴染の冴木から連絡をもらい、久々に彼と会うことになる。そして、それから間もなく、主人公の部屋で女性の死体が見つかり、彼は冴木が指名手配されていることを知る。
主人公と冴木は小学生時代に衝撃的な光景を目撃し、以来、それがトラウマとなっていたのだが・・・
これまで読んだことのある「銃」、「土の中の子供」と同様に、とても読みやすい文体ながら非常に重いテーマを扱っている作品でした。相変わらず、丁寧すぎるくらいに説明的な饒舌な文章が気になったり、エピソードがあまりに「できすぎ」(小説だから構わないんだけど)な気もするんですが、作者の書こうとするテーマがとてもまっすぐの伝わってくる1冊だったと思います。
小学生時代のトラウマがそのまま、中学生時代の事件、そして、現代の主人公と冴木の心の中にいつまでも残り、彼らの人生に暗い影を落とし続けるという物語で、社会的・道徳的には許されることではなくとも、自らの、性質、性格、性癖といった「性」に苦しむ姿はなかなかの読みごたえ。
しかし、どんなに歪んでいても、彼らは自らの「性」と向き合い生きていかなくてはならず、ここで描かれる狂気とも見られかねない行動を我々は完全に否定することができるのか、決して共感はできないけれど、心の片隅に何かが引っ掛かる読後感に心がヒリヒリする作品でした。
こういうテーマの作品はどちらかというと苦手なんだけれど、テンポの良い文体のおかげもあって非常に読みやすく、あっという間に読み終えてしまいました。小学生時代の2人を描いた部分の冴木が、あまりに小学生離れした台詞を言うのがちょい気になったけど。
この人の作品を読むといつも思うんだけれど、このような作風で作品を発表し続ける作者御本人(しかも結構若い)は一体どのような方なんでしょう。意外に、ものすっごい明るかったりするのかなぁ。
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