「少年少女飛行倶楽部」 加納朋子
少年少女飛行倶楽部 加納朋子 文藝春秋社 2009. 4. |
加納朋子はとても好きな作家で、この作品も発売と同時にとても気になっていたのですが、国内作家の作品は基本「文庫派」なため、文庫になるのを首を長くして待っていたところ、同じく加納朋子好きの友人が、この作品はとても面白いからすぐに読むべきだと言って貸してくださいました。どうもありがとうございます。
中学に進学した海月は必ず部活に入らなければならず、野球部の先輩、海星に憧れる幼馴染の樹絵里と共に先輩が兼部しているという「飛行クラブ」に入部することになる。
「飛行クラブ」は変わり者の神が部長を務め、部員は神の幼馴染である海星と2人だけ。クラブの目的は自分の力だけで空を飛ぶことであったが、どのような活動をしているのかは謎に包まれていた。やがて、野球の苦手なのに親の期待を背負って球児と名付けられた少年や、入学早々転落事故にあったという高所平気症の朋なども入部することになるのだが・・・
とにかくとても楽しくさわやかな青春小説でした。このタイトルの作品がつまらないわけがないですよ。完全にタイトル勝ちだと思う。
加納朋子というと、やはり日常ミステリの名手というイメージなんですが、この作品では完全にミステリ要素を排除し、純粋に中学生達の日常を描く作品に仕上げていて、そしてまた、それがとても良い感じにまとまっているのが非常に嬉しい1冊でした。
主人公たちがどのようにして空を飛ぶのか(ちゃんとラストは飛行シーンが用意されている)、もちろんそれも楽しみなんですが、彼らのやりとりの居心地の良さに、自分も飛行クラブの部員になったような気持ちになれるのが良かったですね。主人公たちを描く際の適度な距離感の上手さがなせる技だと思います。
ただ全体のノリがあまりに軽すぎるってのも事実で、底抜けに楽しい作品ではあるんだけど(しかも、こういう作品にありがちな「漫画っぽい」感じにも陥ってないところが良い)、もうちょっと物語に深みがあったほうが良かったかなぁと。テンポは良いんだけど、淡々とし過ぎているというか。それぞれのキャラクターにちゃんと表と裏があって、悩みがあるんだけれど、そこを掘り下げることよりも、全体の軽快なテンポを重視しすぎてしまった感は否めず。
好きなエピソードは、トランポリンのとこ。このエピソードでそれぞれのキャラクターが自分の中で生き生きと動き始めたように思います。
作中で自らつっこんでますが、それぞれの人物の名前がどれもユニークで一昔前ならば絶対にありえないような感じなんですが、最近では割とこういう名前も実在しそうですよね。朋の読み方は目から鱗だったんですが、加納朋子の「朋」という字だというところがちょっと微笑ましいです。
こういう作品って、現役の中高生は多分そこまで楽しめないんだよね。あの頃の輝きを懐かしんだり、こういう学生時代を送りたかったなぁと思う大人こそがワクワクできるのかなぁと思ってみたり。
『モノレールねこ』を読んだときに、加納朋子の持つ可能性が一気に広がったような感覚を受けたのですが、この作品ではそのときに感じた可能性をさらに広げてくれていて、この先、非ミステリのエンターテイメント小説を書き続けるのかどうか、色々と楽しみになってきますね~。
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